第20話・よりよりのより
「ボーン!」
(訳:こんにちわ)
「はい……なにそれ。つか誰?」
「え~、ノリ悪。マジテンサゲ~」
(訳:マジでテンション下がる~)
なにこの人? いや、このモンスターか。ツンとした鼻すじが印象的な整った顔立ち。長い黒髪が風になびき、スレンダーなボディをなでている。そして下半身が蛇。
……魔王軍に違いはないと思うけど、しゃべっているのはなぜかギャル語だ。
ミノタウロスとのバトル後、緑地地帯を求めて支流をさかのぼった。
沢をいくつか超えた辺りで、光の中に緑が香る場所を見つけたんだけど、そこにはすでに彼女がいた。
明らかに異質な相手を見て、一番最初に身構えたのはティラノだった。
「オメーもミノっちの仲間か?」
「それな。ちゃけばがんなえだったよね~、テンアゲで来たのにソクサリとかさ~ マジないわ~」
(訳:ぶっちゃけると本当に萎えたよね、気合入れて来たのにすぐ帰るとかさ)
「なあ、亜紀っち、こいつ一体なにを言ってるんだ?」
「う~ん、ウチも半分くらいわからん……」
「とりまチルってくろはだとかありよりのありなのにメンブレ~」
(訳:とりあえずまったりと肌焼こうと思ったのに、メンタルやられるわ~)
「お、おう。そうだな、よりよりのよりだよな!」
威勢よく抜いた木刀をばつが悪そうに収め、ウチの肩をポンッと叩いて後ろに下がる。
「……亜紀っち後はまかせた」
なにが起きたのかわからないといった表情がこれまたかわいい。
しかし、ティラノを撃退するとか何気に凄いんじゃないか? というか……直感だけど、この娘はなんかウチに近い感じがする。
――よっしゃ、いよいよウチの出番や。ひ~ひ~言わしたるで!
「なるへそ。それはあじゃぱ~だわ。ギャフンなって冗談はよし子さんやな!」
(訳:そうなんだ。それは残念。ふざけるなって感じだよね!)
「そマ? ウケる~。さりげメンディーだけどアゲぽよなうしか的な」
(訳:それマジ? ウケる~。なんか面倒だけど、テンション上げるのは今しかないかなって)
やはりそうか、こいつは……エセギャルだ! 平成初期の黎明期ギャル語が混ざっている。完全なギャルじゃないのならウチでも戦えるで。
――ここは、昭和死語ネット検定三級の実力を見せるしかあるまい!
♢
青い空。白い雲。川のせせらぎ。そよぐ風。
……そして飛び交う死語とギャル語。
「なあルカ。あれ、なにを言ってるかわかるか?」
「無理っスね。暗号会話みたいっスから」
どのくらいの時間が流れただろうか。平成エセギャルVS昭和死語使い。死力を尽くしたウチたちの戦いは、今終りを告げようとしていた。
「なるへそ。それはチョベリバだわ。トサカってもOK牧場。当たり前田のクラッカーやで!」
(訳:それは最悪。頭に来てもOK。当たり前じゃん!)
「生類わかりみの令!」
(訳:わかったよー!)
しかし、なんでこの娘ここにいるんだろ? ミノタウロスたちみたいな偵察って感じじゃないけど……
「魔王ちゃんが激おこぷんぷん丸でつらおだったから、ドロンしてきたんだ~」
(訳:魔王様が激怒してそこにいるのが辛かったから、さっさと逃げて来たんだ)
「そか~。ドキがむねむねだったんだ。トカげっちもプッツンだったけどブラックなのねぇ」
(訳:そか~。ストレスだったんだね。トカげっちも怒っていたけど、環境悪いのね)
まあまあとりあえず一杯。と、桃ジュースをすすめてみた。『ラーメンもあるよ』とポーチから取り出したが、匂いをかいだだけで『酔うから』と遠慮していた。
やはり魔界の住人って、ラーメンで酔えるのか。
「あ、あの……マスターさん。通訳お願いしても?」
ひと段落ついたと判断したのだろう、プチが会話の解読内容を聞いてきた。
「なんか、魔界から逃げてきたら迷ってここに着いたんだって~」
「あの暗号にそんな意味が……亜紀っちすげーぜ!」
「そうっスね! 自分にもわからなかったっス!」
……彼女たちの尊敬のまなざしを前にしたら、実はウチも結構適当だったなんて言えなかった。
「でも、そういう理由なら魔王軍に戻れないよね? 女神さんどうしたらいいと思う?」
〔うん、殺しましょう。サクッと〕
「敵対してない相手に危害を加えるのは無しだ。実際なにもしてないぞ?」
〔途中で心変わりして魔王軍に戻ったり、そもそもスパイって可能性もあります〕
……それを言いだしたらなにもできない。他人を信頼するという気持ち全否定じゃないか。
「ところで、え~と……」
「あ、私はラミア」
名前を聞いた瞬間バクッと心臓が跳ねた。それは、目を見ると石にされてしまうと言われるモンスターの名前だったからだ。
一瞬固まったウチを見て、ラミアは笑いながら口を開いた。
「なんかさ、見た人間を石にするとか言われてるけど、あれってデマだから」
「そ、そうなんだ」
「うん、私に見惚れて固まるくらいのものかな」
ラミアは髪をかき上げて、手からサラサラと流して見せた。魅了する仕草に見惚れる人間……それもある意味石化と言えるだろう。
「そ、それで、これからどうする気?」
「どうしようかな~。戻れないしぃ……このままこの辺りに住むのもいいな。ロケーションは悪くないしさ」
やはり帰ることができないのか。チョコを食べながら、ちょっと寂し気な目で答える彼女。
「……って普通にしゃべれるのかよ」
〔もしかしたら、ミルクチョコに”標準語化“の効果があるのかもしれませんね〕
なにその“ご都合主義の極み”みたいな効果は。
「無理にとは言わないけど、とりあえず一緒に来てみない?」
「ん~、この世界のことまだわからないし、そうしよっかな~」
「めっちゃ普通じゃんよ……」
……ウチの苦労は一体なんだったんだ。
「お、おい、ルカ! こいつなに言ってるかわかるか?」
「わかる、わかるっス!」
「ネネ、白くなってるニャ」
ふっ、燃え尽きたぜ……
ラミア→https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2329941/blogkey/3163839/
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