第180話・肩透かし
「嘘やろ……アンジーが圧されているなんて」
――突如として目の前で繰り広げられる、信じられない光景。
ウチたちが見守る中、彼女を抑え込んでいるのは、たったひとりの魔人だった。アンジーは過去に彼と戦い、余裕で倒したらしい。魔王の側近と言えど、ドラゲロの敵ではなかったのだろう。
しかし今、この場にいる彼の力量は、アンジーと同等かそれ以上だ。
……なぜこんな事になっているのか。始まりは、ほんの一時間前だった。
◇
真上に昇った太陽が、ギラギラと容赦なく照りつけ、蒸された草花の青臭い香りが、少しだけ鼻につく。そんないつもの風景に、それは、突然やって来た。
一瞬、全ての音がかき消え、刺さるような禍々しい圧力がウチたちの拠点・しっぽの家を……いや、世界を覆った。
「これは……魔王っスか?」
「いや、ルカ殿。この魔力の感触は魔王様のものではござらん」
「そうだね、アイツのはもっと強烈だから」
魔力の波長に反応したのは、ドライアドとアンジー。魔王に仕え、魔王と戦い、魔王の事を知っているがゆえの反応だった。
「この魔力の感じ、思い当たる魔族は一人いるけど……こんなバカでかい魔力はありえないよ。魔王だって持っていないはず」
思い当たるけどありえない。このひと言から察するに、アンジーにも、なにが起きているのか判断できないようだ。
「その魔族が、初っ端から解放しているとかじゃないの?」
「そうだとしてもさ、そいつが魔王を超える魔力を持っている事が異常なんだよ。解放は強化ではなく、素の状態に戻る方法だからね」
彼女の言う通り、解放は魔界にいた時の力を引きだす方法。パワーアップではなく、本来の100%の力をだすための手段だ。本人の持つ魔力を超える事はありえない。
だから魔王以上の魔力を放出しているのが誰なのか、見当がつかない、と。
「解放でないとすると、もう一つ問題があるで?」
「うん、それもわかってる」
ウチやアンジーが問題視しているのは、この魔力が、魔王軍の転移ゲートと違う場所に突然発生した事だった。今までは魔王軍の出現場所は一か所だけだったが、複数の場所に出現するとなると手に負えなくなる。
「いったいなにが……」
「んなもん、調べに行けばいいんじゃね?」
「そんなに簡単に言うなよ、新生たん」
「どうせ敵の目的地はしっぽの家なんだろ? 待っていても意味ねぇし」
この意見をきいて、アンジーも『ここで待つよりも、戦闘に有利な場所で迎え撃つ方がいい』と考えたようだ。二人とも、初手は攻めから入る気満々だった。
そしてウチとアンジーは、キティとピノを連れて四人だけで調べにでる事にした。この魔力が囮で、拠点の襲撃を狙っている可能性も考慮したためだった。
♢
――そして今に至る。
〔やられましたね。まさか、こんな手段でくるとは〕
今、目の前にいるのは、身長が2メートル近いスレンダーな魔族。漆黒のゴシックコートをひるがえし、長い犬歯を光らせながらニヒルに笑った。
「……あいつ、ヴァンパイアか」
〔八白亜紀、彼の足元を見てください〕
太陽の光で認識しにくくなっているけど、そこにはうっすらと黄緑色の光を発した、魔法陣のようなものが見える。
「あれは?」
〔召喚魔法陣です〕
召喚魔法陣……アンジーが異世界に転移させられた時のヤツか。
〔地球から異世界に転生もしくは転移すると、元の能力の数倍から数十倍の身体能力を手に入れる事ができるのです〕
「それが転生無双とかになるって事だよね」
〔原理はいまだ解明されていませんが、異空間ゲートを通った時に、そこにある魔力を吸収して強くなると考えられています。魔王軍はそれを利用し、魔界からこの白亜紀の地球に転移させたのでしょう〕
異世界転移と同じ原理で、今度は異世界から地球へヴァンパイアが召喚された。女神さん的には、魔族が地球に召喚魔法陣を作るなんて思いもよらなかったらしい。
地球から異世界に転移すれば強くなる。このシンプルな理論を、魔王軍は逆利用したのだ。
「今までうっし~たちがでてきた転移ゲートは、目くらましだったのか」
「ん~、それもちょっと違うっペな」
どこかで聞いた声がどこかで聞いた口調でしゃべりながら、ヴァンパイアのうしろからひょっこりと姿を現した。
「……毛玉、またお前か」
「転移ゲートはまだまだ使うっペ。一般兵士を召喚するなんて非効率な事はできないっペな」
ん? 一般兵士を召喚すると非効率? 召喚に使う魔力に見合わないのか……って、そうか……そういう事か!
「おまえ、魔王を召喚して強くする気やな?」
「正解だっぺな。まあ、これは試験運用の魔法陣。魔王様用の転移魔法陣は別の場所で作っているっぺよ。これを破壊しても無駄だっぺ」
……ああもう、相変わらずどころか常にムカつくヤツだな。
「それよりも今は自分の心配をした方がいいっぺな。転移者補正のかかったヴァンパイアは、そこのドラゲロよりも強いっぺよ」
アンジーは『ふう……』と息を吐くと、フードの中からエクスカリバーを取りだして構えた。
「アンジー、戦闘は……」
「わかってる。でも、悔しいけどグレムリンの言う通り。今この場で対抗できるのは私だけだよ」
極力戦わせたくないけど、この状況で戦闘の主軸としてのアンジーが欠かせないのも事実だ。
「それはそれとしてさ。なんでヴァンパイアが真昼間からでて来るんだよ」
「なんや、あんさんもかいな」
と、流暢な関西弁で話すヴァンパイア。孤高かつ高貴な魔族ってイメージがガタ崩れ。肩透かしを食らった気分だ。
「はぁ?」
「あんさんもその質問するのかっちゅ〜話や」
当然だろう。ヴァンパイアの弱点なんてあまりに有名なのだから。
「あんなぁ、姉ちゃん。太陽で死ぬとかニンニクが苦手とか十字架が怖いとか、あれ、全部風評やで~。しらんけど」
「……は?」
「まったく、勝手に見た目と雰囲気だけで判断してからに、マジでネット社会って怖いわ~。しらんけど」
〔……なんでしょうか。八白亜紀、この魔族はあなたと気が合いそうに思えるのですが?〕
……う~ん、なんか、ウチもそう思う。
ご覧いただきありがとうございます。
作風が気に入って頂けましたら、この”あとがき”の下にある☆☆☆☆☆をポチっと押していただけるとありがたいです(下にずんどこスクロールお願いします!)
ブックマークも是非是非よろしくお願いします。
今後とも続けてご覧いただけると幸いです!
©2025 幸運な黒猫 All Rights Reserved. 無断転載・引用禁止。
著作権は作者に帰属しています。




