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第179話・大真面目じゃ!

〔そ、それで、え〜と、おぬしはなにを望む?〕


 よくも悪くも、ウェアウルフのひと言で場が和んだと判断したカルノタウルスは、改めてメデューサに質問を投げかけた。


「そうでありんすなぁ……それでは、滝壺辺りに生えている植物の苗を一通りおくんなんし」

〔ほう、そんな物でよいのか、無欲な事よ。かまわん、いくらでも持っていけ〕


 この時のメデューサは無欲な訳でも遠慮したのでもなく、彼女なりに恐竜人(ライズ)たちの将来を考えてくれた上での答えだった。


 ウチはこの話を聞いた時『魔族がなぜ?』と思いもしたけど、これまでに交わした会話や情が、彼女たちを変えたのだと思う事にした。


 なぜなら、俗物だらけの世界に生きてきたウチが恐竜人(ライズ)の生き方に感銘を受けたくらいだから。


 ……もしかしたらこれも、生きる事に全力で素直な、彼女たちの特性なのかもしれない。



〔——最後に、心優しき者よ〕



 カルノタウルスのその言葉に、全員の視線がアクロに向いた。


〔お主はなにを望む?〕


 意味がわからずに首をかしげるアクロ。バーサーク化し、気絶から回復した直後に『なにを望むか』なんて言われてもわかるはずがない。


〔いやなに、楽しませてくれた礼だ。遠慮はするな〕

〔そうよのう、カルノ坊の言う通り、ここ数千年間の退屈が嘘のようじゃったよ。長生きはするもんじゃな〕

「長生きって……大爺(おじじ)っちたち死んでんだろ!」


 ……つっこみを禁じ得ないティラノであった。


〔どうだ、アクロよ。なにか欲しいものはあるか?〕


 多分アクロは、バーサーク化した時の記憶がないのだろう。『楽しませてくれた』と言われてもわかるはずがない。それでもカルノタウロスの熱心な問いかけに、アクロは頭に浮かんだものを口にした。


「……お花畑」


〔なるほど、そなたらしい。ではアクロカントサウルスよ。そなたには、いついかなる時、どのような場所でも花畑を作れる力を与える〕

「お、いいじゃねぇか。アクロにピッタリだぜ!」


「……とんでもない事を軽くおっせえすなぁ」


 ティラノたちが平然としている中、カルノタウルスの言葉にひとり驚くメデューサ。


『いつでもどこでも好きな場所に花畑を作れる』


 これだけ聞くとファンタジーでファンシーなイメージで、ほのぼのとした明るい話題に感じるだろう。きっと誰もが、乙女がキャッキャウフフと走り回る絵が浮かんでくるに違いない。



 ——しかしこで重要なのは、植物限定ではあるけれど、いつでも()()()()()()()()()()()だ。



〔かまわんよ、ここに眠る英霊の、ほんの数千分の一程度の力じゃ〕


 と、得意気に補足するダスプレトサウルス。


 もし彼の言う通り、本当に数千分の一程度の力で生命を生みだせるとしたら、ここに眠る英霊たちの力は果てしなくとんでもないものだ。


 彼等は恐竜と魔族の闘いについて『どちらが生き残ってもかまわない、それが自然淘汰だ』と言った。


 だけど、いざとなればここの英霊たちだけで魔王軍を倒してしまうだろう。生命を生みだす力に比べたら、魔王討伐なんて朝飯前ですらないのだから。


 ……ま、そうは言っても、地球上の生き物が絶滅でもしない限り動く事はないだろうな。


〔名残惜しいのう〕

「そう言うなよ、大爺っち。俺様もそのうち来るんだからさ」

〔ああ? お前みたいなチンケなヤツがここに来れると思ってんのかい!〕

「もう、最後くらい優しい言葉かけろってんだ、クソバ……」


 ——ドスッ!!!


「ぃ……」


 母ティラノのひと突きを脇腹に食らい、悶えてうずくまる娘ティラノ。


〔今、なんて言おうとしたんだい? え、小娘〕

「いや……なんでもな……」


 そんな涙目のティラノを横目に、カルノタウルスは白い歯をキラリとさせながらミノタウルスとガッチリと握手を交わしていた。リザードマンは脳内の声と別れの挨拶を交わしているようだ。


〔みな、またいつでも来るがいい。誰でも歓迎するぞ〕

 

 闘い終えたあとはノーサイド、敵も味方もなくただただ称え合う。あと腐れなく相手を尊敬できる精神こそ、ルールのない時代に最も重要な事なのかもしれない。



〔——さてさてさてさて!! みなの者、準備は整ったか?〕

 


 初めて聞く声に振り返ると、そこには黒いスーツを着た赤い髪の少女がいた。この場にいるという事は英霊だと思われるが、まったく見覚えがない。


「え……誰?」

〔誰じゃと?〕


 赤い髪の少女は『ヤレヤレ』と両手を天に向けて、呆れた顔をティラノたちに向けた。


〔なんて薄情なヤツらじゃ。あれだけ熱い戦いをしたと言うのに!〕

「いや、お前とは戦ってねぇぜ?」

〔なんと、まったく情けない。このワシをもう見忘れるとは〕


 ここに来て邂逅したのは英霊数名のみ。どう考えてもその中に”赤髪の少女“なんていなかった。ティラノは眉間にシワを寄せ、目の前の少女をじっと見て問いかけた。


「だから誰なんだよ……」

〔よく見るのじゃ!〕 

「だから見てるってば。見てもわからねぇんだよ」


〔なにを言うておる。この可憐な姿! この美しき赤髪! このエレガントな容姿! そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!〕


「——はあ? お前、キピオかよ……」

〔まさしく、|インドゥヴィナ~~~~ツォ《正解》!〕

「なぜにそのような小娘の姿になっておるのだ……」


 これにはミノタウロスも思わず声を上げてしまった。ウェアウルフやリザードマンに至っては、呆れを通り越して絶句するどころかもはや我関せずと言った態度だった。


「……ふざけるのは存在だけにして欲しいざます」

〔メデューサよ。ワシがふざけていると申すのか〕

「名前を呼ばないでおくんなんし……」

〔ワシは大真面目じゃ。|ヴィア・ヴィア・ヴィ~~~~アッ《さあ、行くぞ》!!〕


「え、キピオお前……俺様たちについて来る気かよ……」






world:11 ティラノ・アドベンチャー:フルバースト 完

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