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第177話・脳筋二人。

 メデューサが提示した方法は、同じ強さの技同士をぶつけて対消滅させる、ノイズキャンセラーの理論だった。


 ヘッドホンやイヤホンに搭載されている、外部の雑音を消す機能であるノイズキャンセラー。

 これは周囲の音を取り込み、位相を反転させて音をだして相殺させる機能。


 メデューサは、それをティラノとミノタウロスのスキルでやろうと言うのだ。


 確かにその方法なら衝撃波で外的ショックを与えつつ、アクロ自身には最小限のダメージで気絶させることが可能だと思う。


 ……しかしこれには問題がひとつだけあった。


「俺様とミノっちでスキルをぶつけ合うのはわかるけどよ、ちょっとでもタイミングずれたら駄目なんだろ」

「ええ」 

「そんな事できるのかよ……」

「だからお二人なのです。パワーも技量も、脳筋度合いまで似ているのですから」

「お、そうか~?」


 ニカッと笑いサムズアップするティラノ。褒められているのかどうかは微妙なところだが……


「しかし、どうやってタイミングを合わせろと言うのだ? メデューサよ」

「そうですわね……この音、英霊さんたちのスタンピードに合わせて撃てばよいざます」


 いまだ鳴り止まぬ興奮の足踏み。

 メデューサは、この、かの曲にそっくりなリズムをタイミング取りに利用しようと提案してきた。


「仕方ねえ、ミノっち」

「ああ、やるかティラノ」


 脳筋の二人は各々の武器を肩にかつぎ、アクロを見据える。まがまがしい闘気(オーラ)はいまだ治まる様子がないばかりか、先ほどよりも広く大きく霊廟を侵食しているように感じられた。


「作戦は決まったでござヤンスか?」

「ああ、トカげっち((リザードマン))。またせたな!」

「ざっざどじろよ、俺のしっぽがボサボサになる前に……」


 と、ウェアウルフが振り返ったその時。


「——ウェアはん!」


 突然響いたリザードマンの声に、ウェアウルフは咄嗟に身をかがめる。間一髪、ほんの一瞬前まで頭があった位置を、アクロが放った闘気(オーラ)の石つぶてが通過していった。


「気を抜いたらダメでござヤンスよ」

「ふう……助がっだぞ」


 リザードマンとウェアウルフの二人は、ティラノたちが作戦を決めている間ずっと、石つぶてを叩き落とし、弾き、受け流してみんなを守ってくれていた。


「ディラノ、ぼげっとしでないでさっさど終わらぜでぐれ」

「おうよ!」


 ウェアウルフの言葉が終わると同時に、ティラノはレックスブラストを地面にたたきつけるように撃った。衝撃波が大量の砂ぼこりが舞い上がらせ、辺り一帯の視界がふさがれる。


 これは、このあとの行動をさとられない為の一撃。

 

 もちろんティラノがやる事だから、計算によるものではなく……直感と思いつきなのだろう。


「げほっ……ディラノ、撃っ前にひどごど……ぶぼっ……言え」


 アクロに近い所にいたウェアウルフは、思いっきり砂埃を吸い込んでしまった。


「お、(わり)()……げほっ」

「ティラノはん、自爆してるでごさヤンスなぁ」


 苦笑いするしかないリザードマン。そしてウンウンとうなずく面々。


 そして、十数秒ののち視界がひらけた時には、ティラノとミノタウロスがアクロを前後から挟みこんでいた。


 英霊たちのスタンピートに合わせて呼吸を整える二人。目をつむり、足でリズムを取りながら


 ――ここだ! と、目をカッと見開く。


 ほんの一瞬、視線が交差しただけのアイコンタクトで、二人は寸分違(すんぶんたが)わぬ動作に入った。


「「レックス……」」


 足元から立ち昇る闘気(オーラ)が、各々の武器に収束されていく。


 得物を中心に、目に見えるほどのエネルギーの塊が渦を巻き、そして――。


「ディザスター!!」

「グランジャー!!」


 まったく同時に発動した、ティラノの災害(ディザスター)とミノタウロスの大自然の威厳(グランジャー)


 二つのレックススキルは、暴走した(バーサーカー)アクロに向かって一直線に襲いかかった!


 吹き荒れる負のエネルギーと、すべてを包み込む正のエネルギーがアクロを中心にぶつかり合い、渦を巻き、彼女の荒ぶる闘気(オーラ)をガリガリと削り取って行く。


「ガアアアア…………」


 悲痛な色のアクロの叫び声。恐気の闘気(オーラ)を剥ぎとられているのだから当然と言えば当然なのかもしれない。


「頼むぜ、耐えてくれよアクロ……」


 アクロは倒す敵ではなく、救うべき大事な仲間だ。ティラノのつぶやきは、それが痛いほどわかっているからこその願いだった。


 時間にして二〜三〇秒くらいだろうか、ディザスターとグランジャーはアクロを中心に散々暴れまわり、やがて、静寂を残して消えていった。


 その場に残されたのはボロボロになって片膝をつくアクロカントサウルスの恐竜人(ライズ)と、頭上の《《黒い穴》》。


「なんだあれは? あの辺りだけ大気が(ゆが)んでおるな」

「強大なエネルギー同士がぶつかり合ってできた、空間の(ひず)みでありんす」


 ミノタウロスの疑問によどみなく回答をだすメデューサ。多分ここまでは、可能性として想定済みだったのだろう。


「姉っち、そんな事よりアクロだぜ」


 と、ティラノが近づこうとしたその時、『グルルルル……』と恐竜のような唸り声を上げてアクロは立ち上がった。


 すでに戦う力は残っていないと思い込んでいたティラノたちは、咄嗟に武器を構え直す。


「まさか……不完全だったのかよ」

「ティラノ、もう一回やるぞ」

「ダメだ。そんなの、アクロを死なせちまうって」

「だが、このままでは……」


 アクロは足元に転がっている骨を拾うと、闘気(オーラ)を注入し始めた。改めて武器を作りだそうとしているのだろうか。


〔大した力じゃのう。これはいよいよ、殺すしか……〕


 ――ダスプレトサウルスが無慈悲な事を言いかけた時、それを遮るように冷気が走り抜けた。


凍気の鎖(フリーズ・バインド)!!」

  

 メデューサの足元から発生した氷が一瞬にしてアクロまで延び、彼女の膝から下をカチカチに固めた。これは滝壺の闘いで、キピオを捕まえる時に使った氷魔法だ。


「ティラノさん!」


 メデューサの呼びかけが終わるよりも早く、ティラノは一足(いっそく)飛びに距離をつめると、アクロのみぞおちに(こぶし)を叩きこんだ。


「ガハッ……」


 胃液のようなものを吐き、ティラノに身を預けるようにして倒れ込むアクロ。


 しばらくして、バーサーカーの特徴である褐色の肌はす〜っと色白の肌に戻り、同時にいつもの優しい顔つきになっていった。


「ふう、マジでヤバかったぜ」

「アクロさん、大丈夫そうですね。……よかったざます」


 アクロの呼吸が正常に戻っているのを確認したメデューサは、ほっと胸をなでおろした。


 そしてそのひと言は、同時にこの騒動の終息を意味していた。

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