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第176話・それはそれとして……

 ――今ティラノの手の中にあるのは、自らの闘気(オーラ)を束ねた刀、レックスセイバーだ! 


 折れた木刀の柄から伸びるのは、(けが)れの無い真っ白な刀身。その上を光の粒がマーブル状に流れ漂い、キラキラと輝いて刀身全体を青白く輝かせる。


「なんて美しい……」


 目の当たりにしたメデューサは、感嘆を込めたため息と共に呟いていた。


「それに、溢れでる力を感じるざます」

「だろぉ? さすが俺様だぜ!!」


 と、上機嫌なティラノがメデューサに向けてドヤ顔を決めたその瞬間、うしろから母ティラノのミドルキックが娘の尻に炸裂した。


 バチンッと水に飛び込んで腹を打ったような音を残して、前のめりに転がる娘の方。


「痛ぇだろ、このババ……」


 次の瞬間、母ティラノは下段左に構えた木刀で一気に斬り上げた。


 居合にも似たひとすじは、風を裂くヒュッという短い音を残し、眼前に迫っていた漆黒のレーザービームを真っ二つに切り裂いた。


〔前を見ろ!〕

 

 母ティラノが斬ったのは、娘ティラノに向けて放たれたアクロの攻撃だった。


〔おいバカ娘。弱いクセによそ見している暇あんのか? あ゛ぁ゛?〕

「んだよ、だからって蹴ることはねぇだろ!」

〔よかったな、こんなに優しい母親で。ま、それはそれとして……だ〕


 ――その瞬間、母ティラノの眼光が鋭く光った。


〔お前、ババアって言いかけただろ〕

「そ、そんな事、言って……ねぇし……」


 アンジーみたいに音のでない口笛をふ〜ふ〜と吹きながら、母から視線をそらす娘ティラノ。


 ……明らかに“やらかした奴”がとる行動だ。


「目をそらしていますよ、ティラノさん。お認めになったほうがよろしいのでは?」

「姉っち裏切んなよぉ……」

「裏切るもなにも、わっちは早くアクロさんを止めてほしいだけざます」

「お、おう、そうだよな、それが最優先じゃないか!」


 逃げるかのようにそそくさと進みでて武器を構える娘ティラノ。そのままアクロに向き合うと、いつもの感覚で光の木刀を軽く振った。


 新しい得物がどのくらいの重さなのか、斬った時、薙いだ時にどのくらいの負担が手首にかかるのか。戦いに備えてそれを確認するだけのつもりだったと思う。しかし……


 ギィイィィ……ン


 ティラノが軽く振ったその剣筋は、地面を鮮やかに切り裂いていた。


 金属が断ち切られたような音を発したのは、鉱物の含有量が多い為なのだろう。地面の切り口に沿って埃が小さく渦巻き、そのひと振りの鋭さを物語っていた。


「なんだ……これ」


 それもそのはず。青白い刀身に凝縮されているのは、大嵐を巻き起こすレックス・ディザスターのエネルギーそのものなのだから。


 輝く美しい見た目に反して、そこにあるのは暴風雨の塊。気圧計があれば、ティラノの周りだけ物凄い低気圧を記録するかもしれない。


「ヤベェだろ。こんなん、下手したら殺しちまうぞ」


 アクロの暴走を止めるには、気絶させるか殺すか、だ。


 しかし、殺して事態を収束させるなんて選択は絶対にありえない。ここまでの苦労を否定することにもなるし、なにより、大切な仲間なのだから。


 ――急に襲いかかって来る、今迄にないプレッシャー。『自分の力加減ひとつで取り返しのつかない事態になってしまう』と、ティラノはいつになく緊張していた。


「ティラノ、一人で背負(しょ)い込もうとするな」


 そんな彼女のこわばった表情を見て、ミノタウロスは察するものがあったのだろう。仲間として、ライバルとして、声を掛けずにはいられなかったようだ。


「ミノっち……」

「そういう時こその仲間だろ。もっと周りを頼れ」


 ミノタウロスの一言には大きな安心感があった。体格のせいもあるかもしれないが、その自信に満ちた声と存在は、みんなの不安を和らげるには十分だった。


「でも……どうすればいいんだ? なんかいいアイディアあんのかよ」

「うむ、安心いたせ」


 ミノタウロスはイケメンスマイル全開で振り返ると、白い歯をキラッと輝かせながらメデューサにサムズアップしてみせた。


「メデューサ、頼むぞ!」

「……そうなると思っていたざます」


 その瞬間、ティラノも魔王軍も英霊たちも、そこにいる全ての者の意思が重なった。『アイツ、丸投げしやがった』と。


「ひとつだけ手がありんすが……かなり分の悪い賭けざます」

「おう、なんでもいい、できる事があるだけましだぜ」

「ティラノさん、ミノ、二人でアクロさんを挟んでください」


 メデューサはティラノとミノタウロスの眼前にビシッと人差し指を一本立てた。一瞬たじろぐ二人に、彼女はゆっくりと説明し始めた。


「そして、各々の技を全力で撃つざます」

「姉っち今の観てなかったのか? 全力だしたらヤバイっての」

「ええ、もちろん単純に攻撃をしてはいけません。当てるのは衝撃波のみです」


 直接攻撃をあてない衝撃波のみなら、ダメージはかなり抑えられる。


 それでもかなりの傷を負わせてしまうのは確実、運が悪ければ腕一本や二本が吹き飛ぶかもしれない。

 仕方が無いと割り切ったつもりでも、やはり、ティラノの心中は落ち着かなかった。


 メデューサがそんなティラノの気持ちを汲み取っていたかはわからない。


 ただ確実なのは、この旅で得たアクロとの友情にも似た感情を、彼女が大切に思っていた事だ。


 ――そしてメデューサは、自身の願いを込めた賭け、最大の攻撃を最小のダメージに抑える方法を提示する。


「いいですか、タイミングを合わせて放ち、アクロさんを中心にお互いの技を()()()()()()()()()


※今までに世界で観測された最低気圧は、1979年10月12日にフィリピンの西方海上で観測された870hPaです。


ご覧いただきありがとうございます。


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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。


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