第175話・やりゃあ出来るもんだ。
〔その折れた木刀で、もっかいさっきのをやってみな〕
「こいつでディザスターを撃てって?」
〔でぃざ……? そんな小洒落た名前なんざ知らねぇよ。いいからさっさと闘気をだせ〕
突然現れ、ティラノに戦い方をレクチャーし始める母ティラノ。『とにかく闘気をだせ』と煽り立てる。
——しかし今のティラノにはその闘気を纏わせる武器がなかった。
「それができねぇから探しに来てんだってば」
〔ピーピーうるさいね、この娘は。そんなもん気合と根性でなんとかするんだよ〕
「もう、マジかよ。メチャクチャすぎるぞ……」
このやりとりを聞いていたミノタウロスたちは、『この親にしてこの子あり』と言う言葉を思いだしていたらしい。
「ティラノさん、急がないともう持たないざますわ」
メデューサの声に釣られて振り向くと、そこに見えるのは傍若無人に暴れているアクロだった。ミノタウロスも必死で防御しているが力の差が大きく、徐々に圧されてきている。
当のアクロの顔にも苦しさが垣間見え、その表情は『残された時間はそれほど無い』と物語っていた。
「どうなっても知らねぇぞ……」
ティラノは半分投げやりになりながら、肩幅に足を開いて折れた木刀を構えた。ゆらゆらと湧き上がる闘気が全身を包み、塵旋風が立ち上がって渦を巻く。
――しかしその渦は先ほどと違って不安定に揺れていた。何本もの細い渦が分岐して現れは消え、無作為に暴れまわっている。
原因は誰の目にも明らかで、放出したエネルギーを集約するはずの刀身がないのだからどうしようもない。
〔おい、てめぇでだした闘気くらい、てめぇで支配できなくてどうすんだよ〕
「んなこと言ってもよ~。いっぱいいっぱいだぜ」
〔はあ? しゃべる余裕あんじゃねぇか、バカ娘。いいからさっさとイメージしろ、その闘気を刀の形にするんだよ!〕
ウチがタルボをライズした時、妄想パワーで本来のスキル能力、トリガー無しでのライズ化を発動させた。
多分母ティラノが言っている事はそれに近く、意思の力で新たな木刀を作りだせると示唆しているのだろう。
「そうか、亜紀っちの妄想暴走ってヤツか!」
そう言われると微妙な気がするようなしないような……でも、今はそれでいいと思う。きっかけはなんであれ、自身の力を意識的に使うことに違いないのだから。
〔アタシら恐竜の牙は、ちっとばかし折れた程度で使えなくなるような貧弱なものじゃ無い〕
母ティラノはそう言いながら娘ティラノに視線を送ると、黙ってアクロを指差して見せた。
〔どうやってエネルギーを掴んでいるかはどうでもいい。だが、あの剣の形にとどめているのはアイツの意思だろ?〕
刀剣には、持つ者の体格に合わせた長さがある。日本刀なら二尺三寸、つまり約70センチ。これは江戸時代当時、男性の平均身長155センチに合わせて扱いやすい刀長として設定されていたものだった。
アクロが具現化している剣はまさにそのサイズ、小柄な女性が扱いやすい長さだった。
「真似してみろって事か」
例えばイラスト、例えば模型、例えば陶芸、例えばスポーツ。
どんな物事でも最初の一手は先駆者の模倣、技術を盗むことから始まる。好きな漫画のキャラクターを真似て描いた経験は、誰しもあると思う。
——そして、そこがスタート地点なんだ。
そう言った意味では、最も適したモデルケースがティラノの目の前に存在している。
「俺様の木刀の形……」
目をつむり、脳味噌を活性化させて明確なヴィジョンを手元に重ねると、徐々に身体を走っていた闘気が木刀の柄に集まってきた。
それと同時に周囲に吹き荒れていた塵旋風は弱くなり、消えていく。
――そしてティラノの手には、一本の青白く光る木刀が握られていた。
「こいつが……」
闘気を束ねた光の刀、これがティラノの新しい武器だ。
自らの闘気で作りだした武器なら、ディザスターの超強力なエネルギーにも十分耐えられる。いや、むしろ刀身がエネルギー体そのものなのだから。
……ま、見た目はまんまビームサーベルだけど。
武器を求めて旅を続け、火山を登り聖域に到達し、いくつもの課題をクリアして手に入れた力。
一筋縄でいかない戦いから得た経験はティラノ自身を成長させ、そしてこの光の刀、レックスセイバーとでも言うべき最恐の木刀を手に入れるに至った。
——新しい武器ではないが、これ以上ない成果と言えるだろう。
〔驚いた……初めて見たよ、そんな事ができるヤツ。やりゃあできるもんだね、さすがアタシの娘だ〕
娘の手の中に輝く光刀を見て、母ティラノは素直に感嘆の声を漏らしていた。
「はあ? おめぇ、自分ができねえのに煽ったのかよ」
〔あ゛? 母親に向かっておまえとはいい度胸だな〕
またもや木刀の柄で娘の脇腹を力いっぱい小突く母ティラノ。
「ちょ、母ちゃんマジ痛いって」
「あの……親子仲良くコミュニケーション中にもうしわけないのざますが……」
じゃれ合う親子に声をかけるメデューサ。このまま放っておいたらどこまで続くのか不安になったのかもしれない。
「仲良く見えんのかよ……」
「そろそろ彼らも限界が近いようですわ」
肩で息をするミノタウロスとウェアウルフ。リザードマンに至っては、アクロの足元への牽制を続けるしかなかった。
先が見えない状況にみなが焦燥感を感じていた時、そこへ満を持したティラノが声をかけた!
「待たせたな、みなの衆!」
「なんだその演歌歌手みたいな登場は……」
ツッコミを禁じ得ないミノタウロス。ティラノが手に持つ光刀を横目に見て、ニヤリと口角を上げた。
きっと、この場の解決のその先にある、ティラノとの対戦を想像したのだろう。
「——行くぜ、アクロ。へそに力入れろよ!」
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