第173話・強竜と書いて……
「いくらスキが無いとは言っても、アクロさんの手は二本ざます」
「え~と、つまり、全員で同時攻撃しろって事か?」
「ええ。どうやらアクロさんは自分の手で触れた物にしか闘気を付与できないようです」
両手を塞いでから一撃を打ち込むのが最良の一手。ガードさせるのが前提のこの作戦は、アクロに避ける余裕を与えてはダメだ。
つまり、とるべき作戦は”タイミングを完璧に合わせた完全同時攻撃“。今迄の状況を考えると、多分ウチやアンジーでもこの作戦を取ったと思う。
「ワシら四人で同時攻撃か。ならばリザード、タイミングは頼む!」
「任せるでござヤンスよ」
相方であるミノタウロスに、胸をトンッと叩いて答えるリザードマン。
光の矢を番えて、アクロの右肩辺りに狙いを定めた。この一射は足元への牽制と違い、彼女の手を封じるのが目的。
そのため、思わず手がでてしまうような絶妙な位置に射る必要があった。
「ミノっち、犬っち、遅れんなよ」
「お主こそな!」
「ディラノにば負げんぞ」
リザードマンは気合十分な三人声を聞きながら、『ふうぅぅ』と肺の中の空気をゆっくり押しだした。
ギリギリギリ……と弓が撓る音がいつもよりも長い。それだけ慎重に狙いを定めているのだろう。
「——いくでござヤンスよ!」
リザードマンの足元から湯気のように闘気が立ち上り、右手から矢羽根を伝い鏃に集まっていった。
「レックス……」
「お⁉ トカげっちがレックス・スキルを使うのか⁉」
ティラノの驚きは当然だった。
レックス・スキルは、少なくとも恐竜人だけが使える技だと思っていたからだ。
リザードマンがスキルを使えるのは、歴代恐竜たちの力が込められている武器だからなのだろう。
「サンクチュアリ!!」
リザードマンの手から放たれた光の矢は、キラキラとした光の粒子を撒き散らしながら弧を描く。その軌跡に残った粒子は、ふんわりとしたオーロラのような多原色のカーテンを作りだしていた。
これは今まで見た中で最もまぶしく、最も美しいレックス・スキルだった。
そして、リザードマンの一射と同時に飛び出す竜、牛、狼。
光の矢が三人の頭を飛び越えてアクロの右肩を襲う。これでアクロの腕一本は封じられるだろう。
あとは同時攻撃で誰かの攻撃をヒットさせ、それを足がかりにして全員で一気に畳み込めば活路はある。
アクロは、飛んでくる光の矢に反応して無造作に右手を上げた。思惑通り、これで防御に使う腕を一本封じ込められる。……はずだった。
「なんだとっ?」
「マジかよ……」
——アクロは飛んできレックス・サンクチュアリを、弾くでも叩き落とすでもなく、その手で掴み取った!
「まずい……」
野生の勘、とでも言うのだろうか。三人の中で最もアクロの右手側にいたミノタウロスは、咄嗟に大戦斧を地面に突き刺して防御態勢をとった。
——その直後、アクロ自身の闘気を上乗せしたカウンターアタックが三人を襲う。
ラッキーだったのは、アクロの右手側にいたのがミノタウロスだったという事。大戦斧の幅広い刃が盾代わりになって、三人まとめて弾き飛ばされるだけで済んだからだ。
……これがティラノやウェアウルフの武器だったら、多分アクロの攻撃をガードできずに致命傷になっていたかもしれない。
「大概にじでぐれ。メチャグチャだぞ……」
ウェアウルフでなくても同じ事を言ってしまうだろう。明らかに常識外れのチートスキルなのだから。
「み、みなさん落ち着いて下さい……」
メデューサの声に焦りが混じり始めていた。
手が触れた物に闘気を込めるのがアクロの特性だと考えていたが、まさか物理的な物以外までも掴む事ができるなんて思いもしなかったのだろう。
「そうは言ってもよう、どうすりゃいいんだ? 姉っち」
「アクロさんでも受け止めきれないほどの攻撃であれば、あるいは……」
「ディザスターしかないのか……?」
「それはバルログに撃ったと言う技か?」
ミノタウロスはもとより、ここにいるティラノ以外の誰もが、レックス・ディザスターを見た事すらない。
この未完成で未知数のスキルが通用するのか?
それとも想定以上の威力でアクロを殺してしまったりしないか?
……それはティラノにもわからなかった。
「だけどよ、今はそれしかアクロに対抗できねぇと思う。あんなとんでもない強竜にはよ……」
あとでわかった事だけど、本来アクロは物理的な物にしか闘気の付与ができないらしい。
つまり、今アクロがレックス・サンクチュアリを掴んで自身の武器にできたのは、アンジーのジュラたまブーストの効果なのだろう。
……ったく、あの謎女ってばもう。
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