第165話・高揚感
〔なんじゃ大孫娘、それがお主の武器か〕
「いや、よくわからんけど……なんだろ?」
〔ならば、ワシはこれで相手をしてやろう〕
ダスプレトサウルスは足元に落ちている木の枝を拾い、ティラノに向けた。
〔お主らの下らなすぎてぬるい闘い方なんぞ、なんの役にもたたないだろうよ〕
ほんの少し前には『面白い』とか『興味がある』と言っておきながら、またここで逆のことを言いだしたダスプレトサウルス。
「大爺っち、それは違うぜ!」
——即答で否定するティラノ。騙すとかま惑わすとかそんなものは関係がなく、今までに見て、聞いて、感じた事を自身の思いとして口にした。
「亜紀っちに会ってから、捕食のために殺す事はなくなったんだ。まあ、ちっとばかし物足りねえけどよ。それでも今まで食うか食われるかって相手と、今は楽しく笑い合っていられるんだぜ。最高じゃねえか」
〔ほう、最高か。よい仲間じゃ……のっ〕
言葉を言い切るよりも早く、ティラノの懐に飛び込んだダスプレトサウルス。小枝に闘気を送り込み、鋭い一撃を見舞う。
しかしティラノも黙ってやられる玉ではない。瞬時に一歩引き、ダスプレトサウルスの間合いを外すと同時にカウンターを狙って右フックを打ち込んだ。
――その瞬間、ティラノの右拳を光が包み込み始めた。
ダスプレトサウルスは危険を察したのか、右足で軽くジャンプすると光るティラノの拳に左足の裏を合わせ、その勢いを利用して後方に飛び間合いを取った。
その動きは俊敏で力強く、どこを指して自身の事を『か弱い年寄り』と言えるのか甚だ疑問ではある。
「……なんだこれ?」
ティラノは右手を見ながら思わず声を上げていた。いつの間にか、拳から肘まで覆うガントレット状の大型格闘武器があったからだ。
「あれは、アクロさんの能力では?」
「うちにそんな力はなかと~」
「だとしてもあれは先程の……あっ、もしかしてさっきの棒ざますか⁉」
「うん、マスターアンジュが作った言うていたばい」
デスマトスクスとの戦いで目の当たりにした、アクロの手から瞬時に様々な武器が具現化される超現象。
それがアクロ自身の能力ではないと知った魔王軍の面々は、納得するとともに、アンジュラ・アキの能力の高さに驚愕していた。
「とんでもない能力でやんすね」
「うむ、なんとも不思議なものだ」
そもそもマジックアイテムを使うにはそれ相応の能力が要求される。ゲーム的に言えば『武器を装備する為の必要レベル』と言った感じだ。
所持者の能力がマジックアイテムより低いと扱う事はできない。幼稚園生に乗用車を与えるようなものだろう。
逆に所持者の能力が圧倒的に高くても、上限以上の力をだす事は不可能。プロのF1ドライバーが乗用車に乗っても、最高速度は変わらないのと同じだ。
「でもなんかこれって使いにくいよな」
無駄にデカい手をブンブンと振り回しながら、用途に困るティラノ。
〔どこを見ておる、大孫娘!〕
そんなボヤキを無視して、突然上段からダスプレトサウルスが仕掛けて来た。
手に持っていた小枝はボワッと緑に光り、英霊の力で強化されているのが目に見えてわかる。
咄嗟にガードするティラノ。しかし、いつもの癖がでてしまったのだろう、その防御態勢は剣戟を受け流す木刀の構えだった。
「あ、やべ……」
がら空きになった頭部に振り下ろされるダスプレトサウルスの一撃。たかだか小枝でもそこに含まれるエネルギー量はけた違い。
このまま無防備に受けたら大ダメージ確定と思われたその時——。
ガントレットは瞬時に形を変え、木刀となってダスプレトサウルスの攻撃を防いだ。
「うおおお、なんだよこれ!」
目をキラキラさせて高揚感を抑えきれないティラノ。一番驚き、そして一番嬉しそうなのが当の本人だ。先ほど見た不思議な現象が、自分にも起こっていることに歓喜していた。
――アンジー曰く『その人に合った最適装備になるよ』という性能が、ティラノの意思にガッチリとハマった瞬間だった。
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。