第163話・賞賛
首筋にヒヤリと金属の冷たさを感じながらも、満足気なカルノタウルス。こうなることを望んでいたかのような表情に見える。
〔見事だ、ジェントルメン。我輩の裏をかくとはな〕
そしてそれはミノタウロスも同様、息が上がってはいるが目的を達成した爽やかイケメンスマイルが輝いていた。
「で、結局なにがどうなったんだよ～」
戦いの顛末がわからずにモヤモヤするティラノ。
彼女からしたら、そこにいる二人の猛者だけがわかって会話している事に、ある意味嫉妬的な気持ちもあったのだと思う。
〔わからぬか、大孫娘。情けないのう……〕
「んじゃ、説明してくれよ」
〔ふむ、そうじゃのう……〕
ダスプレトサウルスは顎ひげを扱きながら、視線をミノタウロスに向けた。
〔これ、そこのジェントルメン。説明してやるがよい〕
「……大爺っちもわかってねぇだろ」
ミノタウロスとカルノタウルスはお互い顔を見合わせると、どちらともなく笑い始めた。目の前にはそれぞれの呆れ顔があったからだ。
――戦い終えた二人は、今起こった事を語り始めた。勝ち負けを超え、心底楽しそうに。
♢
〔そして本当の狙いは、骨に紛れて斧を投げてくることであろうな〕
——カルノタウルスの敗因は二つ。
これまでのミノタウロスの挙動から『斧を投げてくる』と思い込んだ事、そして『動きを感じることで、どの方向に投げたのかの判断がつく』の一言が、ミノタウロスにヒントを与えていた事だった。
「ならば避けてみろ、これが最後の一手だ！」
ミノタウロスは投擲の構えから、渾身の力を入れて腕を振り抜いた。
その時発した闘気と方向から、着弾地点が自身の真上だと見切ったカルノタウルス。数歩下がって腰を落とし、ミノタウロスの動きに集中していた。
〔ふん、容易いぞ、ジェントルメン〕
カルノタウルスの右手に闘気が集まる。ルカのレックス・インパクトに似た、右ストレートの構えだ。
これは、投擲の直後に突進してきているミノタウロスへのカウンター狙い。
……しかし、ここでカルノタウルスに疑問が沸いた。ミノタウロスが投げたはずの斧が何処にも落ちてきてない事に。
実はこの時ミノタウロスが投げたのは、大戦斧ではなく足元に転がっていた骨片だった。
当然これだけ質量が違うと、カルノタウルスの予測した着弾地点は外れる事になる。
ミノタウロスは投擲の直後、大戦斧を構え突進を開始。それに呼応するように、白い埃の中にある闘気が爆発的な高まりを見せた。
ミノタウロスは、カウンターが来ると察しながらも止まる選択はなく、カルノタウルスに向かって一直線に突進していく。
しかしカルノタウロスはここで違和感を覚えた。
すぐに『武器を持っている』と考えを修正し、白い埃で見えないながらも向かってくる闘気に向かって右ストレートを放った！
——その一撃は大気を揺らし、ものすごい爆音と共に渦を巻く。
ミノタウロスはカルノタウルスが一撃を放つ瞬間、走りながら大戦斧を地面に突き刺し、梃にして最大の敵の頭上を飛び越えていた。
そして、着地したその場に刺さっている白銀の斧を手にすると、その刃をカルノタウルスの首筋に突きつけた。
♢
「あのバカでけぇ音はカルっちのパンチだったのか～」
〔うむ。だが、我輩の一撃は見事にかわされたのだよ〕
嬉しそうなカルノタウルス。さらに……
「ワシの大戦斧は跡形もなく破壊されたがな」
もっと嬉しそうなミノタウロス。そして……
「なんかムカつくな～」
嫉妬するティラノサウルスだった。
〔面白い戦い方を見せてもらった。その白銀の斧は何千年という力の結晶だ、死ぬまで使い倒すがよいぞ！〕
豪快に笑うカルノタウルス。不利を補う“力量”を見せたミノタウロスを、彼は魔族と恐竜と言う垣根を越えて心底賞賛していた。
〔と、いうわけじゃ、大孫娘よ。カッカッカッ……〕
……そしてなぜか得意気なダスプレトサウルスであった。
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。
