第160話・英霊達のスタンピード
「お~、ミノ兄さんカッコよかと~」
「以前よりもイケメン度が上がっているざますわ」
「う……ミノ許ざねえぞ!」
ミノタウロスを褒めるメデューサを見て心中穏やかでないのはウェアウルフ。勝手に一方的なライバル心を燃やしたようだ。
――あとで聞いた話だが、魔力量によってここまで見た目が変わる魔族はかなり珍しいそうだ。
「待たせたな、カルノタウルス」
地面から大戦斧を抜き構えるミノタウロス。解放と連動するように、大戦斧の赤い刃先が灼炎のごとく輝きだした。
対するカルノタウルスは得物を肩に担ぐと、左手の人差し指をチョイチョイと動かし『来い!』とジェスチャーで答える。
そして闘士二人の視線が交わった時、どこからともなく“ドドド……”と地響きが聞こえて来た。それは次第に大きくなり、足元が不安定に揺れ始めた。
「地震でやんすか?」
「いえ、そうではなさそうざますが……」
〔ほっほっほっ、これは英霊たちの足踏みじゃよ〕
これは、ミノタウロスとカルノタウルスの闘気に反応した何千何万の英霊たちが、戦いを鼓舞する為に踏み鳴らしているらしい。
どちらに味方をするという訳でもない、純粋に戦いを見届けたいというスタンピング。
――まさしく、英霊たちのスタンピードだ。
「しっかしこれ、どこかで聴いた気がするんだよな……」
「私も知っとうと。マスターアンジュの記憶にあるったい」
真っ先に反応するティラノとアクロ。恐竜人が持つ記憶は、ウチたちマスターから付与された知識や記憶の断片だ。
……そして英霊たちの足音は、記憶にある“とある曲”に酷似していたらしい。
後日ティラノがかなり微妙なリズム感でその時のスタンピードを再現してくれたんだけど……あれはまさしくQUEENのRock Youだった。
「ふっ、なにか魂を揺さぶられるような、心地よい高揚感を感じるぞ!」
ミノタウロスは初めて聴くリズムが気に入ったようだ。目の前の強敵と闘志を掻き立てる音、その二つがミノタウロスを今までにない境地に押し上げた。
——瞬間、雄叫びを上げたミノタウロスが大戦斧を振り上げ踏み込む。
もちろんカルノタウルスのテンションもこれまでになく高く、ミノタウロスの動きに答えるように前にでた。
叩き下ろすミノタウロス、斬り上げるカルノタウルス。一合、また一合と斬り結び、大戦斧同士が削り合う音が霊廟中に響き渡る。
ダスプレトサウルスは、ゆっくりとその場に腰を下ろすと、ティラノたちを見ながら“ぽんぽん”と地面を叩いた。『ここに来て座れ』と言う事なのだろう。
ティラノとアクロ、魔王軍の三人は大人しくダスプレトサウルスの隣へ行って腰を下ろした。
「大爺っちはどっちが勝つと思う?」
〔カルノに決まっておろう。あヤツの強さは折り紙つきじゃぞ〕
「なら俺様はミノっちだ。アイツの根性はハンパねぇぜ」
ティラノとダスプレトは完全に観戦モードだ。
そんな二人を見てアクロやメデューサたちは呆れていたが、リザードマンはその状況をすんなりと受け入れていた。
彼にとって、この展開は二度目だからだろう。……ティラノとミノタウロスの闘いの時に、ウチも同じ事をしていたからな。
「チョコ食うか? 大爺っち」
〔ほう、チョコとな? はて、見たことの無い物体じゃが……〕
しげしげと見つめ匂いを確認するダスプレトサウルス。ティラノが食べているのをみて、真似る様に口に放り込んだ。
この時代にはない、未知の甘味を食べたダスプレトサウルスは、黙ったまま笑顔がほころんでいた。
――その時突然、大きな音が響く。
ミノタウロスたちの闘いで、衝撃波がそこら中に飛び散っているせいなのだろうか、周囲の壁沿いに横たわっていた恐竜の骨が崩れ始めた。
背骨が折れ、肋骨が砕け、ガランガランと言う中空の音と共に崩壊していく。
「ダスプレトさん、あれは歴代の方々の骨ですわよね?」
〔おう、そうじゃの〕
「大切な遺物ではないのざますか?」
〔そうよのう……〕
ダスプレトサウルスはなにもない空間を見つめると、腕を組みながら子供を諭すように話し始めた。
〔英霊は魂だけの存在じゃ。骨なんぞは単なる形骸にすぎんよ〕
「それでも、存在した証明としての墓標とも言えるのでは?」
〔墓標なんぞ不要ではないかな? 残ったものが記憶し、次の時代へ引き継げばよいだけの話じゃ〕
まがりなりにも恐竜たちの代表としてこの場を仕切るダスプレトサウルスだ。その言葉には何千年にもわたる時代の重みが感じられた。
〔そもそも肉体なんぞ借り物よ。だから地球に返すのが筋と言うもの。自然に生まれ自然に生き自然に死ぬ。それでよいのじゃよ〕
それまでカラカラと笑いながら話していたダスプレトサウルスが、急に鋭い目つきになりティラノたちを刺した。
〔——それ以上を求めるのは身の丈に合わぬと言うもの。お主ら、そこのところを軽く考えるでないぞ〕
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。