第157話・牛なのか?
——まさしく“圧倒的”と言う表現が似つかわしい。
何千何万もの巨大な骨に囲まれた大空洞。壁も天井も見えないほど広く奥深い空間だ。
そこには、霊廟だからなのかひんやりした空気が漂っていた。にもかかわらず、横たわる巨骨から感じるエネルギーは、熱く燃えるような感じをも受ける。
もしこの場に考古学者や恐竜マニアがいたら、この上ない幸せを感じる垂涎の空間なのだろう。
……もっともそんな人間は、一億五千万年ほど待たないとでて来ないけど。
ティラノたちは、そんな大空洞の入り口にいる。
そして、ダスプレトサウルスの英霊である“しょぼくれた爺さん”は十メートルほど先に立ち、こちらを、特にティラノの動きを注視していた。
「よっしゃ、どこからでもいいぜ! かかってきな、大爺っち」
拳を握りしめて腰を落し、ファイティングポーズを取るティラノ。
素手での戦闘はルカの専売特許だが、それでも古くからのつき合いゆえか、その戦闘スタイルはイメージとしてハッキリと脳裏に浮かんでいるようだ。
しかし……
〔おいこら大孫娘。どっちを向いておるのじゃ〕
「もう騙されねぜ、敵は前じゃない、うしろだ!」
ダスプレトに背を向けて構えるティラノ。周りの微妙な空気をものともせずに、気合のノリだけは十分だった。
「……ティラノはん、『正面から来ない』ってそういう意味じゃないでやんすよ」
「え……マジ?」
黙って頷くリザードマン。
「……ならばこっちか!」
「横でもないでやんす!」
本人は至って大真面目だ。それでも、その場でクルクル回る動きはどこかコミカルで、アクロは楽しそうに呟いた。
「なんな〜、ティラノ姉さん可愛いかと~」
「お、おう……そうか」
照れながら正面に向き直すティラノ。ダスプレトはため息をひとつつくと気を取り直し、全員を見渡しながら口を開いた。
〔これが最後じゃ。わしと戦って見事勝って見せよ〕
「ああ、そのつもりだぜ!」
〔まあ、そうは言うても大孫娘ひとりでは力不足じゃろう。六人全員でかかって来てもよいぞ〕
恐竜人の力を知らないとは言え、あまりに馬鹿にした言葉。魔王軍の面々にしても戦いに明け暮れて来た猛者ばかりだ。
そんな戦闘民族のプライドを軽く見られたことに、ティラノたちは憤りを感じていたのだろう。
しかしそんな中、ミノタウロスだけは反応が大人しかった。むしろ戸惑っているようだ。
「なにか……違う」
「どうしたんだよミノっち」
「うむ、よくわからぬが、ワシの求める者はこやつではない」
「亜紀っちの言う『コレじゃない感』ってやつか?」
ダスプレトサウルスの英霊から発せられている、今までにない強力な闘気。しかし、どうにもミノタウロスは歯切れが悪く、自身をここまで導いた”力“が彼のものではないと言う。
……それはミノタウロス自身も、なんの確証もない感覚的なものでしかなかったのだろう。
「ミノはん、それでもなにか感じてはいるでやんすよね?」
「うむ、力は感じる。だが……」
〔——なるほど、それは我輩の事ではないかね?〕
突然聞こえてきたのは低く落ち着いた男の声。
声の先、ダスプレトサウルスのうしろに一人の男が立っていた。
ミノタウロスに勝るとも劣らない大柄で屈強な体躯、そして頭には二本の角。
〔む? なにをしにでて来おった〕
〔そう言うな、ダスプレの。この者は我輩の客人じゃよ、多分な〕
男は、丸太のごとき上腕二頭筋を見せつけるかのように腕を組み、ミノタウロスに鋭い視線を向けて威圧した。
〔そうよのう? そこの角つきジェントルメン〕
男から放たれた闘気を受け止め、片手で大戦斧を振り回して構えるミノタウロス。
「うむ、間違いがない。確かにワシが力を感じるのはこの者だ!」
〔力を欲すのならば、我輩と戦い力を見せよ。さすれば神力を貸し与えようぞ〕
ビリビリと空気を震わせる闘気を感じながら、ミノタウロスは武人としての名乗りを上げた。
「我が名はミノタウロス。強き勇者を狩る者だ。お主、名は?」
〔ほう、不遜にも我が名を聞くか。くくく……よかろう、その胆力気に入った〕
男がニヤリと笑うと、白い歯がキラリと光った。
〔我輩はカルノタウルス。ここに来てまだ数百年程度の若輩者なれど、努々甘く見るでないぞ〕
「カルノタウルス? ……アイツも牛なのか?」
(注)恐竜ですよ、ティラノさん。
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。