第150話・堅守恐竜
——最初に動いたのはティラノだった。
彼女は奇をてらわず正面から一直線に突っ込み、タリスマンに手を伸ばした。
しかしこれは、あと数センチという所で、デスマトの背中から伸びているトゲ角に阻まれてしまう。
その動きは恐ろしく正確かつ自在で、ティラノをも凌駕する素早く力強い動きだった。
それならばと、ミノタウロスとウェアウルフは左右から同時に仕掛ける。剛力で叩きつける大戦斧と鋭い斬撃で切り裂く大剣の攻撃だ。
二人に合わせて、リザードマンは一度に三本の矢を番えて足元を狙って射る。
……しかしこれらのどれもが彼には届かなかった。
ミノタウロスが振り下ろした豪閃は、トゲ角の曲面に軌道を変えられて地面に刺さった。
ウェアウルフの鋭閃に至っては二本のトゲ角に白羽どり状態で掴まれ、リザードマンの矢は三本まとめて弾かれて、デスマトスクスの後方に流れ飛んで行った。
「なんだよこれ。ガイアと戦ってるみたいじゃねぇか」
デスマトスクスは隙だらけのように見えながらも、背中から生えているトゲ角があらゆる攻撃を、時には受け流し、時にはガードしていた。
……その守備範囲は正面はもとより横からもうしろからも隙が無い。
ティラノはガイアの虹羽根に例えたが、本体が直接動かしている分、より精密な動きができるようだ。
「あ~、なんかもう、ちゃっちゃとやってくれないっすか? それとも怖いんすか? 肉食獣なのに? 六人もいるのに? ダサすぎんだろお前ら。……あ、すみません」
「なんか、面倒なヤツだな……」
「面倒なのはお前らだっての。いつまでもちんたらやってんなよ。それでも男か? 玉ついとんのか? ……あ、すみません。ごめんなさい」
「……お下品ですわ」
こめかみを押さえながらため息をつくメデューサ。もはや呆れを通り越して諦めの境地に達していることは口調から明らかだった。
……そしてそこから無我の境地に至るミノタウロスのひと言。
「玉がついておるのは三人だけだ!」
「ミノ、うっさいざます」
「モ……」
再びメデューサの視線がミノタウロスを貫く。一瞬の殺意を感じたミノタウロスは、やはり石になったかのように固まってしまった。
「よし、気合入れろよ!」
ティラノは両手で自分の頬を叩いて気合を入れ直し、デスマトから視線を外さずにみんなを鼓舞した。
「ミノっち、犬っち、あの草食野郎に肉食獣の強さを思い知らせてやろうぜ!」
「ああ、なめられっぱなじはオレの性分にあわねぇがらな!」
呼応するように姿勢を低くして大剣を肩に担ぎ、デスマトを睨むウェアウルフ。
……しかしミノタウロスは、それとは正反対にぼ~っとつっ立っていた。
「どうした? ミノっち、疲れたのか?」
「いや、あの……ワシ、草食なのだが」
一瞬動きが止まる面々。『ああ、そう言えば牛って……』とみんなの脳裏に浮かんだ事だろう。
「ま、いっか」
「……いいのがよ」
と、ティラノにツッコミはしたものの、自身も『ま、いっか』と思っていることに気がついたウェアウルフ。バツが悪そうに、そ~っと大剣を構え直していた。
「なあ、姉っち。キピオの時みたいに魔法でチャチャっと固められね?」
「それが無理なのですわ」
「ここは水がないでヤンスからね」
「それもですが、そもそもこの部屋は魔法が使えないのです」
メデューサはその時点で、すでに何度か魔法を試していたらしい。
しかし、魔術杖の先からはマッチ程度の火はもとより、僅か一滴の水すらでる事がなかった。
「魔法というのは、術者本人だけで使える物ではござりんせん。要は魔力の源、魔界の影響下にある場所で使用可能になるのざます。大抵の場所は異空間で繋がっていますけど、この部屋には結界みたいなものが貼られていますわね。外界に干渉できないみたいですの」
「なんでもできそうなのに、魔法って結構面倒なんだな」
「ですので、今回わっちは全くの無力でありんす」
そう言うとメデューサは部屋の隅っこに行き、ちょこんと座っているアクロの隣に腰を下ろした。
「花、お好きなのですね」
「うん、ばり落ち着くけん……」
(訳:とても落ち着くから……)
アクロは、一凛の白い花に語り掛るように返事をしていた。
岩陰にたたずむように生えていた花を妙に気に入ったらしく、指先でなでるように愛でていた。
「優しい方なのですね」
おだてでもなんでもなく、メデューサは心底そう思ったのだろう。
海の家を出発してここに至るまでずっと、事ある毎に野花に語りかける彼女を見てきたのだから。
……しかし、メデューサはひとつだけ見誤っていた。
アクロの本質は、その優しさの裏にある事を。
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。