第127話・どざえもん
「オラオラ、さっさとでて来やがれっス!」
「きっと中で泣いていやがるんデスよ!」
動かなくなったグレムリンこと、ストーンドラゴンであった岩の塊をガシガシ蹴飛ばすルカと、大鎌の柄で首元をつつき上げるスー。
「お~い、多分もうその中にはいないぞ~」
二人ともよほど悔しかったのだろう。それはもちろんウチも他のみんなもだ。
気を抜いていたわけじゃない。だけどほんの、本当にちょっとの隙をつかれ、ウチたちはグレムリンを取り逃がしてしまった。
♢
グレムリンを無力化し、情報を聞きだそうとしたその時。
——ドライアドは突然猫耳幼女に斬りかかった。
慌ててウチが足に飛びつき、同時にルカが刀を持つ腕を押さえて、なんとか止めるたんだけど……。
「亜紀殿、放すでござる」
「駄目っスよ。ドラのおっちゃん」
「幼いとは言え、この者はここで斬らねばのちのち災いをもたらすは必至。今ここで禍根を絶つ事こそが最善手でござる」
多分言っていることは正しい。予知なんてチート能力を持つ者が敵方に居たら、苦戦するどころの話じゃない。
だけど……正しいのと納得するのとは意味が違う。
こんな小さい子に、それも自分の意思で戦っているのではない子供に、災いとか言うものじゃない。
だからなんかもう、怒りにまかせて“スネ”に全力頭突きを喰らわせてやった。
「弁慶でも泣くんやで!」
スネを押さえてうずくまるドライアド。さすがに木のモンスターでも“そこ”は弱いらしい。
「なあ、もしハーピーやセイレーンが災いをもたらすとしたら斬るんか?」
「亜紀殿、なにを……」
「できるのか? できないだろ。それと同じ……ウチにとってこの子はそういう存在なんだ。頼む、わかってくれ」
口調こそ大人しかったけど、多分その時のウチは物凄い剣幕だったと自分でも思う。
お互い睨み合うこと数秒、ドライアドは言葉を失ったまま刀を下ろし、ゆっくりと鞘に納めた。
「致し方ござらん」
不本意でもこの場は引いてくれてホント助かった。
もしまたドライアドと戦うことになったら、正直勝つ自信はない。だから彼等には悪いとは思うけど、魔王軍から敵認定されたのはラッキーととらえるべきなんだろう。
この先は中立無所属ってスタンスでいてもらうのがよさそうだ。多分それでも裏切りって事になってしまうのだろうけど。
「とりあえず、ウチたちが争うのは無しやで!」
心なしかハーピーやセイレーンが安堵しているように感じた。
多分、みんな本音は戦いたくないのだと思う。ミノタウロスも純粋にバトル好きってだけだし、魔王軍って言っても気のいいヤツが多い気がする。
「それに、いまは毛玉をなんとかしないとだろ?」
「うむ……」
――突然、馬の嘶きが響き渡る。
その“けたたましい”声に振り返ると、そこには意識を取り戻したケルピーが立っていた。
ウチが慌てて身がまえた時には、すでにドライアドは踏みだしてケルピーに向けて一直線に突っ込んでいた。
「部長……」
早いなんてものじゃない。恐竜人ですら反応しきれていないのに。
腰に溜めた力を一気に抜刀に乗せるドライアド。しかしケルピーはバックステップで刀の間合いを紙一重で外す。
ケルピーは身長が二メートル以上あり、筋肉質だがスッとして見える、俗に言う“細マッチョ”だ。
顏は残念ながら馬ではなく、意外にも彫りの深い中東系の褐色イケメンだった。
武器はドライアドと同じく日本刀だが、こちらは五割ほど長く反りも強い。
〔あれは戦国時代の戦で使われた大太刀ですね〕
間髪入れずに解説を入れる女神さん。
「部長のとは違うの?」
〔ええ、戦場では馬もろとも叩き斬る、殺傷能力の高い刀です〕
「馬を斬る刀を持つお馬さんか……」
ハーピーが『力量が等しい』と評価するくらいだ。ドライアドとケルピーは、幾度となく模擬戦もしているのだろう。
お互いがお互いの力量を知り、間合いを知り、性格を知っている。
それ故、と言ってしまえばそれまでだが……ケルピーのいままでにない一手を、ドライアドは読み切ることができなかった。
ケルピーはドライアドに打ち込むと見せかけ、振り下ろした大太刀から手を離した。
「なんだと!?」
驚くドライアドを横目に、ケルピーは馬に変身しながら走りだす。そしてそのまま猫耳幼女を咥えると、一気に走り去って行った。
本当に一瞬の出来事で、その尋常ではない速さには、誰一人として追いつく事が叶わなかった。
〔やられましたね〕
「やられたね……」
多分ドライアドが知るケルピーは、逃げを決め込む性格ではないのだろう。だからこそ“逃げの一手”が効果的だった。
「多分、猫耳幼女を連れ帰るのが最優先事項だったんだろうな」
と、口では言ってみたけど、猫耳幼女に関しては現状で打つ手がなく、どうするか決めかねていた。
だから魔王軍に連れ戻してくれたのは、対策を練るための時間稼ぎとしては、むしろありがたいと思う。
下手に保護して人質になっている家族に危害が及ぶのはまずいし、だからと言ってこの場に一人残すわけに行かなかったのだから。
「グレムリンはグレムリンでいつの間にか逃げてるみたいだし、ホント厄介な連中やで」
「ところで亜紀さん、ちょっと報告があるのですが」
「そうそう、重要な話がありやがるデスよ」
ピノとスー、二人して改まってなんだろう?
「水中でケルピーと闘っている時なのですが……」
迂回して河口に向かったはずのスーが方向音痴のおかげでケルピーの背後に回る事になり、前後から挟み撃ちの態勢になった。
ピノが苦戦しているのを見てかなりの強敵と判断したスーは、背後から忍んでいきなりレックス・カタストロフィをぶち込んだらしい。
その時のエネルギーの衝突が何本もの水柱を生みケルピーを倒す事になるのだが、その際に予想外のトラブルが発生していたと言うのだ。
「やって差し上げてしまったデスぞ」
「え、なにを?」
なんか不安しかないのだが……
「え~とですね……スーが巻き込んだのです」
「いや~、まさかあんな所を泳いでいらっしゃる水棲恐竜がいやがるとは、このスー様、一生の不覚でいやがります」
「え~とつまり、それって……その辺りを泳いでいた恐竜さんをレックス・スキルに巻き込んでしまったと?」
スーがにこやかな笑顔でウチを観てサムズアップしている。いやいや、駄目でしょ巻き込み事故なんだから!
「端的に言うと、生きたどざえもんでしょうか」
「ピノちゃんまでメチャクチャな事を……」
〔しかし八白亜紀、あなたより大分マシなパワーワードですね〕
「……」
二人に連れられて波打ち際まで行くと、三~四メートル位の青い水棲恐竜が泡を吹いて倒れていた。
とりあえず命に別状はなさそうだけど、とんでもない所に居合わせたものだな。
「こんなん、トラウマレベルやろ……」
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