第126話・日常風景
「なぜだっペ。最強種族ドラゴンの姿に恐怖を感じないなんて、こいつらどうかしてるっぺ」
周りの岩や砂と一体化し、完全に動けなくなったグレムリン。
右脚に続き、左脚まで破壊し始めるスーと、いつの間にか背中によじ登り、ガシガシと頭を蹴りまくるルカ。
「や、やめるっぺよ～」
「ところがどっこい、やめてやがりませんデスよ！」
「ったりめ～っス。地獄に落ちろっス！」
グレムリンが犯した最大のミスは、まさしくドラゴンの形態になった事だった。
これがファンタジー世界の住人なら、ドラゴンそのものに対する伝説や神格化もあって、最大の畏怖を与える事ができただろう。
しかしここは白亜紀、恐竜の世界だ。恐竜人たちにとって、目の前のドラゴンは“本来の姿となんら変わることがない”極々日常の風景。
……恐怖心なんてものはまったくなく、むしろ遊び相手に過ぎなかった。
「それに、ちびっ子の分も殴らねぇと気が済まねぇっスよ！」
「こ、これで勝ったと思うなっぺ！」
「なにをおっしゃいやがってますデスか。最後に立っていやがる方が勝ちデスぞ！」
♢
「なんかピノちゃん凄かったな～。息を飲むってこういうことかな？ 呼吸すんの忘れてたわ」
ドライアドが黙って頷いている。腕を組んで目をつむり『よき物を見た！』とでも言いたそうな感じだ。
「ドライアド様、セイレーン、体調は……」
決着がついたのを確認した直後、超特急で戻って来たハーピー。
「安心しぃ。回復ポーションでバッチリや」
目の前には三本の空き瓶が転がっている。これはアンジーにだしてもらったポーションの空き瓶だ。
ドライアドとセイレーンにしてみたら、アンジーのアイテムなんて“敵のアイテム”とか“仇の持ち物”って認識でしかないはず。
それでも、ウチがここにいるのは“ハーピーがアンジーの恐竜人に救援を求めた”からであって、今は決して敵ではないと理解してもらうのは難しくなかった。
「うむ、大事ないでござる」
「バッチリですわ。ママライバル亜紀さんのおかげです」
「だから変な肩書きつけんなってば」
……なんかもう、一生言われそうだ。異世界にさらわれないように注意せねば。
「ベルノはウチが小さい頃に死に別れた猫なんだ。それが白亜紀に来て奇跡的に再会できて……大事な家族で……だから異世界に連れて行かせるわけには……」
「あら、連れて帰る訳ありませんわ」
ウチの言葉を遮り否定するセイレーン。なんだろう、そのちょっと引っかかる言い回しは。
それまで苦笑しながら聞いていたドライアドやハーピーまでもが、その一言で真剣な面持ちになった。
「もう、無理ですの」
「無理って、なんで？」
「理由はなんであれ、軍の幹部であるグレムリンに刃を向けた以上、魔王軍に戻る事はできませんわ」
「マジか。って、あれ……」
ハーピーがドライアドの指示待ちをしていたのは“そういう事”だったのか。
自分の行動がみんなの進退を決めてしまうという状況、だからドライアドの言葉がなければ動けなかったのだろう。
「それ、ウチがハーピーにみんなの援護を頼んだのが原因なんじゃ」
「亜紀殿とは関係ないでござる。反旗を翻したのは拙者の判断、責任の全てはそこにしかあり申さん」
「いや、そうは言うけどさ。そんなに自分にばかり責任を課すもんじゃないで？」
と言いながらも、ドライアドはめちゃ頑固だから、言葉を引っ込めないだろう。
それでも、ウチにも責任の一端はある訳だし……。
「なんか、モヤモヤするぅ～」
「亜紀さん、気にしないで下さい。私があなた方に助けを求めた時点でこうなる事はわかっていたのです」
「ハーピー、あんたまで……」
「もしかしたらですが、ティラノさんについて行ったメデューサとウェアウルフも裏切り者として認識されているかもしれません」
すべては覚悟の上での行動、いや、覚悟せざるを得なかったって感じか。
……でも、これもグレムリンの策なんだろうと思ったら、ものっすごいムカついた、モヤモヤムカついた。
「仕方ない。こうなったら、君たちの面倒はウチが見るで！」
こうなったらもなにも最初からそのつもりだったんだし、結果から見ればまあまあ予定通りだ。
あとは猫耳幼女なんだけど……さて、どうしようか。
家族が人質に取られているとなると、無理やり連れて行くのは愚策だよな。どこにいるかわからないから、保護しつつ家族の救出ってのは無理だし。
グレムリンの言う事だから、本当に人質を取っているかすらも疑わしいけど……いずれにしても、人質の真偽が分からないと手はだせない。
一番の問題は、これをアンジーにどう話せばいいのか。無駄に勘がいいから、半端に話すと即バレそうだし。
「はあ、難関すぎるで……」
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。
