第109話・人質
「亜紀っち、条件って？」
「最低でも誰か一人、同行者を連れて行く事」
こんな条件、ティラノは絶っっっ対に拒否するだろうな。自分のわがままに他人を巻き込めねぇって。
「これは俺様一人でやらなきゃならな……」
「んじゃダメ！」
「そんなぁ～」
「うるうるした目で見てきても、ダメなものはダメ！」
こればかりは譲る訳にはいかない。他でもない、みんなの為にだ。
「ティラちゃんの力を疑っているだけじゃないよ、微塵も。それはみんなも同じ。なにがあっても挫けないって信じてる。だけどね、一人でやれることには限界があるんだ。不慮の事故とかね。その時に周りを見渡して誰もいない不安ってのはものすごく神経を削られるんだよ」
ああ、なんかもうブラック企業の頃の体験談を話しているみたいで辛くなってきたぞ。
「……補足って訳じゃないけどさ」
と前置きをして、アンジーが真剣な顔で言葉を挟んで来た。
「八白さんの言っていることは真理と言ってもいい位だよ。急に孤独になると、普段面倒に思っている相手ですら求めてしまうから」
「それはオレも同意するわ……」
そうだ、アンジーは理不尽に異世界に飛ばされて、ずっと孤独だったんだよな。初代新生にしても、友人に裏切られ母親が植物人間状態になって……
ウチたちみんな、なんだかんだで孤独を知っている者同士だったんだ。
「みんなから言われるならそうするけど、誰と行けばいいんだ？」
「ん～、ルカちゃんはティラちゃんとツーカーの仲で連携もバッチリだけど、戦力的に抜けられてはまずいよな。ま、本音は全裸になってご先祖様を怒らせたら恐いって事なんだけど」
「八白さん、本音漏れてる……」
「ガイアちゃんやキティちゃんは探し物が得意だけど、索敵に欠かせないし。防衛には必要なスキルだから、いなくなるのはかなりキツイ」
ベルノのペインスローはライズには効果がない、それに火山にバルログがくっついてくとか灼熱地獄だな、これは。
タルボの特性は重力だからこれまた火山に影響がでちゃうかもだし、プチは視力弱くて探し物との相性は最悪。
……ヤバイ、誰か連れていけと言いながら、候補がいないじゃん。
「亜紀ぴ、私が行くのが一番いいんじゃない？」
「ミアぴ……」
「回復もできるし～、優秀だし～、攻撃もできるし～、優秀だし～」
指を折りながらできることを並べていくラミア。……って、優秀って二度言いおった。
でも、実際能力的には問題ないしティラノとも気心が知れているけど、“魔王軍と戦う為の武器探し”について行ってくれとは言えない。
「魔王軍を追い返したらミアぴだって異世界に帰るのだろうし、その時、魔王と折り合い悪くなっていたら嫌じゃんか」
「でも家族じゃん？ 亜紀ぴ、皆家族っていってたじゃん？」
「言ったけど～。それは言ったけど……」
今回はスッキリしないんだよな。彼女の帰る場所はやっぱり魔界しかないと思うから。
もちろん、ここにずっといてくれるとありがたいけど、でも最後に帰る場所ってのは、本当の血を分けた家族がいる所。
……と、悩んでいたら、ありがたいことにメデューサの助け舟が出航した！
「ラミア、あなたが行くことは許しません」
「お姉ちゃんまで～」
「ぞの通りだ。お前ば帰ったあどの事を考えろ」
「そうそう、二人の言う通りやで～」
ナイスだ。いいぞメデューサ、いいぞウェアウルフ。君らも大人しくしておいて、できたら中立な立場でいてくれ。
それにしても、最近標準語で話す時のラミアが妙に大人っぽく見えたけど、メデューサ相手だと子供に戻るんだな。
「でも、みんながんばってんだよ」
「許しません。あなたになにかあったら、わっちがエキドナ姉さんに叱られるざます。わかっていますよね？ 姉さんを怒らせたらどうなるか」
「ミアぴのとこはまだ姉ちゃんがいたのか」
でも、口調からすると相当恐い感じなのね。それにしてもラミアも食い下がるよな～。ありがたいんだけどさ。ここは引いてくれるともっとありがたい。
「でも……」
「ダ・メ・ざ・ま・す！」
「そしたらティラノさんが一人で行くことになっちゃう」
「気にすんなよミアっち。元々俺様は一人で行く気だったんだからヨ！」
「——いいえ、一人もダメでありんす！」
おいおい、メデューサなにを訳わからない事を。そういうのを支離滅裂言うんやで！
「わっちが同行しなんす！」
「だからそういうのは支離滅裂って……」
——なんですと⁉
「こらこらこら、ミア姉それは飛躍しすぎだって。自分だって魔界に帰らなあかんのやろ？ 魔王軍と戦うウチたちを手伝ってどうすんだよ」
「ついでに言えばさ、裏切らない保証はないよね？ メデューサにまったくメリットがないんだし」
アンジーのこのひと言は助かる。実際裏切るとかそういう心配はないけど、それでメデューサが諦めてくれるなら理由はなんでもいい。
「まったく、ミアぴもミア姉も、とんでもない事を言いだす姉妹だよな～」
……なんてボヤいていたら、ラミアからクリティカル級の追い打ちが入った。
「わかった。私は今から亜紀ぴの人質になるから！ お姉ちゃん裏切ったら私殺されるから。それならいいよね」
……うん、二人はやっぱり血が繋がっているな。
「ようざんす。亜紀ぴさん、もし妹に手をだしたら……わかっているざますね？」
よくないだろ～、なにを言いだすんだキミタチは。なんかウチ、話に置いて行かれてそのうえ悪人になっているのですが。
「メデューサが行ぐのならオレも行ぐぞ」
「マジか。ワンちゃんまでって。……カオスすぎるだろ。なんでそこまでする理由があるんだよ」
「亜紀ぴ、ちょっと……」
……なんだろ？ コソコソと内緒話？
「察してあげて。あのね、実は……（ごにょごにょ……）」
「——マジか、ワンちゃんがミア姉に惚れてるって⁉」
「八白さん、漏れてるって……」
「あ……ごめんやで」
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。
