1 そんなバカな
「ああ、人生長いようで短かったな……」
俺は病室の窓の向こうの景色を眺めながら回想に浸る。
幼い頃から病気がちだった。
お医者様によると病気への免疫が著しく低い体質らしい。
なんでこんな体に生まれてきちまったんだろうな。
まぁそんなの当の昔に割り切ってはいるが、やはりいざ死ぬとなると話は違ってくる。
どうやら病原が肺を蝕んでしまい、もう回復不可能な状況まできてしまったらしい。
人間いろんな病気にかかるし、どんな人でも最終的には死ぬんだから人生そんなものだと言われてしまうかもしれない。が、流石に十七歳はなくないか? まだまだやりたいこと沢山ある気がするし、今まで結構な時間を病室で過ごしてきたぞ。まぁ幸いインターネットの普及したご時世に生まれてきたというのもあって、暇で暇で仕方がないということがなかったというのが唯一の救いだな。いろんな本を読んだり作品に触れたりして、ある種俺の人生を形作ってくれたと言えるかもだし。
という感じで入院ライフも意外と自分の時間が取れたりでそれなりに乙だったりレアだったりしたわけだけど……やっぱり普通の人生を送ってみたかったなぁ。
「ふぅ、疲れた」
ああ、自分でも分かる。
俺はもうじき死ぬ。
メチャクチャお腹が痛かった気がしたが、今はまるで何も感じない。
いよいよおしまい、なのか。
最後にやり残したことはないか。
大好きなポテトフライを食べるとか? いや、そんな状況じゃないな。ていうか何を考えたところでもうどうしようもないな。
そうだな、せめて来世は健康な体で生まれますようにとでも祈っておこうかな。
そうして俺は静かに目をつむった。
意外と苦痛等感じることなく、俺のおよそ十七年の人生は幕を閉じた。
……しょうねん
なんだ、何か、聞こえる気が……
しょうねん……きよ……
なんだ、うるさいぞもう朝か? また入院患者のおじいちゃんが騒ぎだしたのかな。ナースも大変だよな。
「少年、起きよ!」
「…………へ?」
気づけば俺は知らない人に話しかけられていた。
急いで周りを確認する。
周囲は一面真っ白。
どういうことかと思えば白い雲に囲まれている。
足場も当然白い雲でなんかちょっとだけモコモコしていた。
「ようやく起きたか。まったく最近の若者ときたら……。それで、お主の名は古宮空人でいいな?」
そう尋ねてくる男はどこか憮然とした顔つきの男だった。
非常に整っていて体格もいいのだが、どこか人を寄せ付けなさそうな雰囲気を醸し出している。
え……ほんとに誰? 知らない人だ!
「そうですけど……誰ですかあなた?」
「おっと口の聞き方には気をつけた方がいいぞ。我だからこそ大目に見ているが、他の神だと天罰を加える者もおるだろうからな」
やばいもしかして怒らせちゃったのかな?
でも話し方とか言っても本当に訳の分からない状況だし誰かすら分からないんだよな。
「あ、すみません……」
「まぁ謝るのなら許そう。我は寛大だからな。ちなみに我は神と呼ばれておる者だ。あらゆる世界を管理し、秩序を取り持つ役目を担っている。どうだ恐れ入ったか。感服してもいいが、サインはやらないからな」
えー、なんか凄い自信過剰というかなんというか……え、本当にまだ全然状況が分かってないんだけど、とりあえずこの人は神とか言ったか? にわかには信じられないけど……でも俺って確か死んだんだよな? 最後にそう思って目を閉じた記憶がある。となるとこの状況を含めてそこまで信憑性のない話というわけではない気がしてきたな。
「サインは大丈夫です。でも神様に出会ってるってことは、やっぱり俺は死んだってことなんですかね?」
「だから言葉遣いに……まぁいい。そうだ。お前は病室で最後を遂げた。それを今回こうして天国に呼び出したのは、お前がとある取り組みに引っかかったからなのだ」
ああ、やっぱり死んだんだ俺。でもこうやって意識があるっていうのは神様パワー的な何かなのかな。天国って言ってたし、人の魂が辿り着く場所なのかもしれない。
「取り組み、というのは……」
「それだが実は現在神々の間で、『幸、不幸を統一しましょうキャンペーン』というのを実施しておってだな。前世であまりに不幸値が高かった者に再起の機会を与えよう、という粋な取り組みなのだ」
「なる、ほど? 僕はそれに引っかかったってことですか」
「そうだな、で、お前には異世界に転生して貰おうかと思っている。現在問題を抱えてる世界があってな、そこに派遣する形だとちょうどいいということなのだが」
異世界? 転生? なんだか話がトントン拍子で追いつけないけど……漫画とかでよく見るアレなのかな? まさか本当にそんな機会が訪れるなんて……人生いっぺん終えてみるもんだな。
「異世界、というのは一体どういった……」
「お前の世界で言うファンタジーの世界だな。剣やら魔法やら魔物やらがいる。まぁこの手の世界は割と沢山あるんだが、お前には少し難を抱えている世界に転生してもらいたい」
なんだかもう転生する流れになってるぞ。まぁありがたい話だけど大丈夫なのかな。
「難というのは病気かなんかが蔓延してるとかですか?」
「全然違う、実は魔物がいると言ったが、その頂点に君臨する魔王がいささか強くなりすぎてしまってな。この討伐を頼みたいと思っている。異世界の勇者としてな」
なんだか凄い展開になりつつあるな。
「僕が勇者? まったく想像つかないんですけど……」
「ともかく、そういうことだ。ちなみに拒否権はない。わざわざこうして説明してやってるだけありがたいと思えよ。お前の処遇などこちらのさじ加減でどうとでもなるのだからな」
うわー、なんか神様から一番聞きたくなかったセリフかも。すごくダサい気がするのですが。口には出さないけど。
「まぁ、分かりましたけど……」
「それじゃあとりあえず転生してもらうわけだが、生身のままだと本当にすぐ死んでしまってそれでは意味がないという話になったらしくてな、お前には神による力を授けようと思う」
「力、ですか?」
「ああ、それはくじ引きで決めてもらう」
すると次の瞬間、神様の目の前におみくじの箱のようなものが出現した。
「能力は公正をきすためにランダムで選択するようにしてある。他の転生者も同様だ、お前にだけいじわるしているわけではないぞ」
「他の転生者?」
「当然お前以外にも取り組みに選ばれた者がいる。お前を含めて五人程度なのだが、他の者はもう説明は終わっている。お前が最後なんだ、もたもたするな」
えー、なんか気になる情報だけ散らばせといて質問したら怒られるとか、なんて理不尽な……
「とにかく引けばいいんですね」
俺はおみくじの箱を受け取る。
でもどうやって振ればいいんだ? 普通に考えてこの穴を下にしてこうか、えい!
俺は箱を逆さまにして振ってみた。
すると紫の棒のようなものがでてきた。
お、ちゃんと出たな。
出た棒は神様が拾って、自分の顔の前に持ってきて読んでいた。
「ふむふむ、なるほどな。お前の能力は『道具を上手にしまう能力』だな。ほら、これが特典のポシェットだ」
そう言って神様は首に斜めに掛けるタイプのポシェットを渡してきた。え、なんて言った?
「ということで主要なところはあらかた話したな。俺はそろそろ溜めてたドラマを消化しないといけないからこの辺で失礼するぞ。それじゃあな」
そして適当な感じでフェードアウトしていった。
え、ちょっと待って、何がなんだか説明が不十分というか……
そうして俺の眼前は、唐突な光に覆われた。