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雑多行進曲  作者: 茅吹
アルヒ村編
2/4

カオと英雄譚


 ここはアルヒ村。大きくなだらかな山の麓にあり、村の周囲には森林が広がる自然豊かな村である。


 村人たちは森や川に住む動物たちを狩猟したり、あるいは川の水を村に引き入れることで田畑を耕して生活している。大森林を少しずつ開拓して田畑の土地を広げており、その田畑の規模は村の土地のおよそ7割に及ぶ。これらの田畑の土地に点々と家を建てる者もいれば、川沿いに家を建てる者もいたりと、村人の住む場所は様々である。


 そんなアルヒ村で生活する少年カオ・ダナウスは、旅人を目指している。


 カオは今日、父ネラ・ダナウスのおつかいで村の東側にある農家のイルト・ベルベッタのもとを訪れていた。



「おはよう!イルトおじさん!」

カオはイルトの家の扉を開けて、大きな声で挨拶した。



「お、カオじゃないか。今日もネラさんのおつかいか?」

イルトがカウンターの奥からやってきた。



「うん。あと、俺の分でげんこつパン一個!」



 げんこつパンとはベルベッタ家が考案した、昔から人気のアルヒ村名物のパンである。見た目はただの丸いパンだが、大きめのパンでボリュームがある。中にジャムやクリームの入ったものもあるが、その中でも特に、何も入っていないげんこつパンは生地の香りがよく一番の人気商品だった。カオもこのパンが大好きだった。



「はいよ、そこに座って待ってな。」

ネラのメモが入った籠をイルトへ渡し、カオはカウンター席に座る。



「おはようカオ。今日も元気だね。」

イルトの娘モン・ベルベッタがカオのもとへやってきて挨拶をする。



「おはよう、モン!」

カオも元気よく挨拶し返した。



「お父さん、手伝えることある?」

モンがイルトのもとへ行き、尋ねた。



「ああ大丈夫だ、カオの相手をしていてくれ。」



 イルトがそう言うと、モンはカウンター越しにカオとしばらく話をしていた。




「英雄譚?」


「うん。今よりもずーっと昔にいた英雄の話。物心つく前に母さんに読んでもらったんだ。」


「へぇ、それがカオが旅人になりたいと思ったきっかけなのね。それでその英雄様は、いったいどんなことをした人なの?」


「うーん...。それがなぁ、よく思い出せないんだよ。うっすらぼんやりとは覚えてるんだけど...。」



「あははっ、なんだそれ。本当に英雄だったヤツなのか?」

メモを見ながら商品を籠へ入れていたイルトが、二人の会話を聞いてカオに尋ねた。



「困っている人を救うために旅をした人だったことは覚えてるんだ。俺の憧れた人だ。」


「でもカオが憧れるなんて珍しいね。私もその英雄譚読んでみたいなぁ。ねぇ、その本今どこにあるの?」

モンが少しワクワクしながらカオに聞いた。



「それがさ、二年前久しぶりに読みたいなーと思って探したことがあったんだけど、家中見ても無かったんだよ。父さんに聞いてもわからないって。」


「捨てちゃったんじゃない?ずっと前に読んだ本なんでしょ?」


「ずっと大好きだった本なんだ、そんな簡単に捨てないと思うんだよなぁ...。」


「そっかぁ、残念。」



「にしても旅人になりたいと思ったきっかけ、ネラさんじゃないんだな。ネラさんも昔は旅人だったんだろ?」

モンががっかりしている中、イルトは商品を詰め終わり、二人のもとへ歩いてきてカオに聞いた。



「うん、俺が生まれる前は旅人やってたって言ってた。けど父さん、昔のこと全然話さないんだよ。旅に必要な知識とかは教えてくれるけど。」


「まあここは旅人を辞めて住んでるのも何人かいるからな。きっと誰にも言えないくらいのことがあったんじゃないのか?」


「そうなのかなぁ...。」

目線を少し下げ、カオは父のことを考えた。




「お、そういえば。カオ昨日誕生日だったんだってな。モンから聞いたよ、おめでとう。」

イルトが思い出したようにカオを祝った。



「うん、ありがとう!」


「カオももう10才か、子供の成長は本当に早いもんだ。」


「自分ではあんまり成長した気がしないけどね。旅人になるためにもっと強くならないと。」

カオはそう言って苦笑いする。


「強くなるためには一杯食べないとな。誕生祝いにげんこつパン2つサービスしてやるよ!」


「いいの!?ありがとう!」

 カオは喜んでそう言うと、商品とげんこつパンが3つが入った籠を受け取った。




「じゃあ俺行くよ。2人ともありがとう!英雄譚のことは...まぁダメもとでまた探してみるよ。」

そういってカオは少し落ち込んでカウンター席から降りた。



「カオの持ってた英雄譚はもう見つからないかもしれない。それでもちゃんとカオの夢に繋がってるんだ。旅の特訓、頑張れよ。」

カオの様子を見て、イルトはカオを励ました。



「うん。俺は絶対、英雄みたいな旅がしたい!そのために特訓もっと頑張るよ。」


「ねえカオ。もし旅に出たらさ、その英雄譚のこと知ってる人たちに会えるかもしれないね!」

モンもカオを励ますように、言葉をかけた。



「そうだな!あの英雄譚の内容が思い出せる日が来たら、モンにも教えてやるよ!」

少し落ち込み気味だったカオは再び元気になり、笑顔でそう言った。



「サービスしてくれてありがとう、イルトおじさん!またな、モン!」



 カオはイルトとモンに別れを告げ、農家の家を後にした。



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