母の読み聞かせ
「かあさん!このほんよんで!」
とある夜のとある家の中、暖かな光が家の中を照らしている。
小さな子供が古く分厚い本を抱きかかえて、母のもとへ一生懸命歩く。母はブランケットをかけて椅子に座っている。母の目の前には暖炉があり、大きく炎が揺らめいている。
「いいわよ、こちらへいらっしゃい。カオは本当にこの本が好きね。」
「うん!」
子供は笑顔で母のもとへ駆け寄る。子供の名前はカオ。数日前に3歳になったばかりだ。
カオに優しく言葉をかけた母はブランケットをどけて、カオを自分の膝の上に乗せる。母は再びブランケットをかけ直し、カオが持ってきた本を膝の上で立てて開いた。
「カオ、今日もいつものように最初から読めばいいかしら?」
「うーんとね、さいしょから!」
「うふふ、今日は最後まで読めるといいわね。」
読み聞かせは毎回途中で終わってしまう。
その理由は二つあり、一つは母には持病があってあまり長い時間呼んでいると咳込んでしまうことがあったから。そしてもう一つは、いつも夜遅くに読み聞かせを行うので、読み聞かせている途中でカオが寝てしまうからだ。
さらに毎回カオが内容を忘れてしまうので、再び読み聞かせるときはいつも始めからだった。
「遠い昔、ある旅人がいました―」
母の読み聞かせが始まった。母の優しい声はとても心地よく、カオは母にこの本を読んでもらうのが大好きだった。
カオは母の読み聞かせから、本の内容を少しずつ思い出していく。暖炉から伝わってくる炎の温かさが、次第にカオの肌へ、そして体の中へと伝わっていき、カオと母は温かな空気に包まれる。
それからしばらくの間、母の読み聞かせが続いた。
「―そして旅人は敵から要塞王国を守り切り、王国を救った英雄となったのです―」
「えーゆー!えーゆーってなーに?」
「そうねぇ...。人の命を守るとても強くて優しい人、かしら。」
「えーゆー!!!」
母が淡々と本を読み進めていく中、カオは母が言った言葉をそのまま復唱したり、度々分からないところを母に聞いてそれに母が答えるというのがいつもの読み聞かせであった。
それから再び母の読み聞かせは進む。
「―ある日、喉が渇いて倒れている人たちを見つけました。英雄は水を人々へ分け与えましたが、なんとその水は王様のために運んでいた大切なお水でした。王様は怒り、英雄と呼ばれた男は殺されてしまいました。」
「おーさまひどい!」
母が読み聞かせる中、カオが突然そう言ってふくれっ面で母を見る。
「カオなら、この時どうする?」
「えっとね、のどかわいた人に水をあげる!えーゆーはまちがってないもん!」
「そうね、困った人にはお裾分けしなきゃね。」
「おそすわけってなーに?」
「お、す、そ、わ、け。はんぶんこしてあげることよ。困った人がいたら、自分の持っているものを分けて、みんな幸せになるの。」
「それだ!おそすわけ!おそすわけ!」
『お裾分け』を間違えて言いながらも笑顔なカオを見て母は微笑み、再び話し出す。
「でもカオ、王様は少しだけしか貰えなかったから怒ったんじゃないかしら?いっぱいお水が欲しかったんじゃない?」
「そっか...でもいっぱいあるなら、おそすわけしたほうがみんなうれしい!いつか大人になったら、おーさまに怒りに行く!」
「ふふふっ、これは昔話だから王様はずっと前に死んじゃってるわよ?」
「そうなの!?」
カオは母の言葉に驚き、落ち込んだ。しかしすぐに立ち直り、母にこう告げた。
「じゃあ、えーゆーみたいに旅する!困った人がいたら『おそすわけ』する!」
「いいわね、それ。けどカオ、『おそすわけ』じゃなくて『おすそわけ』よ?旅に出る前に沢山言葉を覚えないとね。」
母はカオの頭を撫でて優しく語りかけた。
「うん!おすそわけ!おぼえた!」
カオは元気よく母の言葉に応える。
「かあさん、つづきよんで!」
暖かな部屋の中、カオが催促して母の読み聞かせが再び始まる。
暖炉の炎は依然として揺らめき、カオと母を見守る。
しばらく村編書こうと思っています。まだちゃんと書き上げていないので、合間合間でゆっくり作れたらいいなと思ってます。