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きょう1日の夢をみる。

作者: 夏 茉莉

夢と現実の境を漂う話

きょう1日の夢をみる。


板の間で腹這いになって寝ている。

うっすらと開けたまぶたのすきまから、黒い床板を横から入った光が幾筋か照らして光るのが見えた。

視界の端、光の届かぬ部屋の隅は暗い。


起き上がると背をぐっと丸め、伸びをする。

体の調子はまずまず。

寝起きは喉が乾く。

水を飲みに行く。いつもの場所に水は置いてある。

寝ている間中出しっぱなしだったせいだろうか、いつもより水はぬるい。

だがそのぬるさは喉の渇きを癒す水の美味しさを妨げるほどではない。


一通り水を飲むと、寝惚けていた頭もすっきりする。

身だしなみを整えにかかったところで玄関の鍵が開く音がした。

同居人が帰ってきたらしい。


場面は飛び、暗い階段からおのないけのないモノが上がってくるのを自分は待ち構えている。

それははたして同居人だろうか?

この家に入ってきたモノの正体はまだ分からない。

音は徐々に近づいてくる。

確固とした重みを持った低い足音が。

どん。

どん。

どん。

自然浮き足立つ。

どん。

どん。

どん。

どん。

自然総毛立つ。

闇を背負った影が入り口にその姿を現す。

その姿は…


視界が暗転する。

何者かに追われている。

よくわからないが、そのような焦燥感が自分の身の内にあるのだ。

机の下へ。林立する椅子の足を縫って奥へ。

だめだ、ここではスカスカだ。自分の姿が丸見えである。

これではおのないけのないモノがその大きな体を折り、こちらに顔を寄せれば…嫌な予感に後ろを振り向けば、正に予想した通りの恐ろしい顔が目前にあった。

思わずヒッと息を呑み、慌てて更に奥へと身を隠す。

しかしおのないけのないモノは1人ではない、机の下を複数で囲んでいる。

机の反対側の端から出そうになっているところを、別のおのないけのないモノがゆっくりと手を伸ばして捕らえようとする。

動きは愚鈍だが不意を突かれ、またも慌ててターンする。

辛うじて彼等の手の届かない机の真下に移動し、体を小さく縮める。

彼等は歌い踊り手を叩き、机の周りを廻る。

音で誘き寄せようというのか。

時折、体を折りこちらをじろりと覗き込む。その度に身の縮まる思いをした。


一体この狂った空間からどのように逃げ出せばいいのだろうか…途方にくれる。

だが、チャンスはじきに巡ってきた。

動かない私に飽きたのだろう、おのないけのないモノたちはゆっくりと机を離れ、順繰りに階段を降りて行った。


私は彼等の姿が、騒ぐ音が、目から耳から消えてもまだ机の下で蹲っていた。

こんなことが前にもあった。

ふとそんな強い既視感に襲われる。


確か、その時は…


私はふらふらと立ち上がると、出口へと歩き出した。


その時もこうして外へ出た。

その時は玄関に着き、

開いたままのドアからママが帰って来て…


私は外に出た。デジャビュは来た時と同じように唐突に去った。

今回は母は現れなかった。


いつの間にか日が暮れていたらしい。

暗い闇夜の中で、街灯が照らす部分だけが明るく浮かび上がる。

その明暗の差にピントを合わせようと目を瞬かせた。


次の瞬間、

どん。

どん。

どん。

階段を上る音がする。

一気に私の意識は床の間に寝そべる私に引き戻された。

どん。

どん。

どん。

どん。

夢の残滓を引き摺る体が、その音に反応する。

浮き足立ち。

総毛立つ。

闇を背負って姿を現したのは、おのないけのない同居人だった。


「はるちゃん、ただいま」

同居人がこちらを認めて声をかける。

数少ない、おのないけのないモノの言葉で判るいつもの音を聞き、ふっと全身の筋肉が緩み、尻尾の幅が通常に戻る。


居ない間、怖かった。

同居人が部屋に入るとふっと明かりが灯り、不安が霧散した。


足元に擦り寄り、お帰りの挨拶をする。

日常への帰還を果たしたのだ。

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