マオウに拾われた少女
「……ごめんなさい」
雨風が、泣き叫ぶ大嵐の中、とある山の馬酔木の下で、私は、産声を上げた。そして、この一言が、最初で、最後の母親の言葉であり、別れの言葉だった。
どうして、私は、捨てられたのだろう。その時の私には、知るよしも無く、ただ、ただ、大嵐と共に泣き叫ぶしかなかった。
「オギャーオギャー……」
オギャーオギャー……
やまびこが、私の声を運んでいる。誰かに届いてくれないかな、私は、まだ生きたいよ……
……「何者が、泣き叫んでるのかと、来てみれば、人間の赤子か。」
誰か来た。やまびこが、私の声を届けてくれたのかな。もふもふな、黒い毛におおわれた大きな体に大きな牙、そして、頭に二本の大きな角が、生えている誰かが、私のところに来た。
「この世に生をなして、五分と数秒といったところか。このまま、ほおっておけば、勝手に死ぬか。」
あー、行ってしまった。嵐は、強くなっていき、体温も下がっていってる。私もう、これで……
「やっぱり、こうだから、俺は、未熟な魔王なのかもな、困ってる奴が、誰であろうと、助けてしまう。」
あれ、戻ってきた。その人は、やれやれとした様子で、バスケットの中から、私を抱き上げ、歩き出した。
「安心しな、俺は、お前を死なせないし、これから、しっかり、育ててやる。だから、城に着くまで、もう少し、耐えてくれよ。」
それから、その人は、『城』という、ところまで、私を抱きかかえながら、大嵐などに、目にくれず走り、山の崖の上にある純白で、きれいな城に着いた。中に入ると、その人は、貧弱しきった私に食べ物を与え、お湯に浸からせてくれた。そして、大きなベットにその人と、私は、横になった。
「そういえば、俺、こいつの名前を知らなかったな。そもそも、あるはずもないか。今ここで、付けよう。う~ん、何にしよう。」
その人は、私の名前を首を傾げながら、考えた。私のために考えてくれていた。うれしいなぁー……
「……ん、あれ、あー、寝ちゃったのか俺。」
「スースー……」
「はぁー、まったく、こいつ、可愛い顔で、寝やがるな。名前名前名前名前……はっ」
朝、目が覚めると、その人の笑顔が、最初に目に飛び込んできた。ちょっと、びっくりしてしまった。
「ごほんっ、お前の名前は、アセビだ。」
「ア……セビ?」
「そうだ、アセビだ。お前と出会ったときにあった木から、名付けた。気に入ったか?」
「アセビ、アセビ……キャハッ、アセビアセビッ」
私は、つけてもらった名前を気に入り、その嬉しさにたくさん笑い、手をパチパチと、させた。
その後、その人は『マオウ』と名乗った。
……十年後。
「はぁー、疲れた。」
私は、城の中で、一人魔法の修行をしていた。ちなみに今、ここにいないが、私の修行の師匠は、マオウだ。
「お疲れ様です。アセビ様。いやー、いい修行っぷりですね。タオル、おいておきます。」
「ありがとう、スミレ」
スミレは、最近、マオウの幹部になったオオカミのような見た目の魔族の方で、とてもマオウに対する忠誠心が、強い。
「いい汗だな、アセビ。もう、俺より強くなったんじゃないか?ハーハッハッハッハー」
「じょうだんは、やめてよね、マオウ」
私は、スミレの持ってきてくれたタオルで、汗を拭き、近くにあった長い椅子に腰を下ろした。となりで、マオウも腰を降ろした。
「あのさ、なんで、マオウは、十年前、親に捨てられた私を拾ったの。」
「と、突然どうした。」
「いやぁ。今日、私の誕生日だし、なんか気になったから。それに人間と魔族って、とても仲が、悪いんでしょう。」
「確かに人間と魔族は、仲が悪い。だけど、俺は、困っている奴が、人間であろうと、見捨てられない性格で、それで、偶然、困っている奴にアセビだった。というだけの事だ。それに最近、俺は、人間と魔族が、仲良く手を取り合って、生きていける世界にしたいと考えている。正直、今では、まだ夢のような事だがな。」
となりにいたスミレは、魔族ながら、このことに同意しているようだった。
「それよりも俺には、もっと叶えたい夢が、あって……やっぱりいいや。」
マオウの言いかけた夢が、何だったのか、少し私は、気になったが、そこまで、深掘りは、しなかった。
……五年と七ヶ月後
城は、魔族で、溢れかえり、みんなが、優しくしてくれるし、夜は、お祭りのような毎日で、最近の私は、とても楽しい。
「今日も楽しい一日の始まりだーっ」
私は、思い切り、カーテンを開けた。すると、派手なよろいを身にまとい、ピカピカと光る剣を持った一人の男の人間が、いた。人間の男なんて、初めて見た。それにしても私と同じくらいの年に見える。
「お、お前は、誰だ。」
「俺は、勇者オダマキである。マオウを倒しに来た。」
オダマキの声は、私の部屋にまで、しっかり聞こえてきた。多分、すぐ隣にいるマオウにも聞こえているだろうな。私は、急いで、赤いラインの入ったローブを着て、エナンをかぶり、杖を持って、オダマキのいる城の入り口に向かった。
「待ちなさい、その前に私が、相手をしてあげるわ。」
「「「「ア、アセビ様っ」」」」
「ほぉー、面白い。まさか、人間が、魔族の味方に着いていたとは、これは、なんとも人間の恥だ。」
オダマキは、剣を抜いて、私に斬りかかって来た。私も杖を構えて、炎の球をぶつけた。
「くっ、中々の魔法じゃないか。これほどまでに強い魔法の人間は、お前が、初めてだっ」
バンッ、キンッ
私とオダマキは、接戦していた。魔力もまだ、たんまりと、残っている。いけるっ、一か八か。
「今だっ」
炎の球、氷の球、毒の球、雷の球をありったけの魔力をふりしぼり、たくさん作りだし、思い切りぶつけた。
「ぐわああああああっ」
オダマキは、私のありったけの魔法を受けて、その場に倒れた。私も全力をぶつけたためその場に座り込んでしまった。
「やったぜ、アセビ様っ」
「さすがです、アセビ様っ」
「アセビ様、アセビ様、アセビ様、アセビ様……」
魔族たちは、私を称えた。そして、その中に寝ぼけながら、こちらを見るマオウもいた。
「マオウ、おは……」
「ははっ、嘘だよっ」
「あぶないっ」
突然立ち上がったオダマキに座り込んでいた私は、何も対応できない。やばいっ
グシャアアッッ
「……はっ!?マオウっ」
「ぐっ……ぐはっ」
バタッ
マオウが、私を守り、代わりに攻撃を受けてしまい、口から血をふき出し、その場に倒れてしまった。
「「「「「マ、マオウ様っ」」」」」
「あなた、よくもマオウ様をっ」
マオウの幹部スミレが、剣を抜いて、背中を向けているオダマキに斬りかかっていった。
「や、やめろ、やられるのは、俺だけでいい。これで、平和になるというのなら。」
「マ、マオ……お、お父さんっ、お父さんのいない平和なんて私、やだぁー。」
私は、お父さんの手を握った。
「やっと、『お父さん』って、呼んでくれたな。それが、俺の言い損ねた夢だ。でも、人間と魔族の平和の世界は、夢で、終わってしまったな。ははっ、これは、この俺の最後の願いだ。生きてくれ。最後まで一緒に入れなくて、ごめん……な。」
最後にお父さんが、強く手を握ってくれて、それ以降お父さんが、手に力を入れることは、無く、息をふき取った。
「ま、人間の平和のためだ、許せ。」
オダマキは、軽い口調で、そう言うと、帰っていった。
「こ、これから俺たちは、一体どうしたらいいんだ。」
この日から、このどんよりとした空気が、続いた。しかし、私の怒りの熱は、治まっていなかった。私は、いつも以上に魔法の修業をした。
それから一年後、私は、仲間を見捨てて、城を出て行った。お父さんの夢だった『人間と魔族の平和な世界』を作るために。
まずは、一年間。私は、今まで、修行してきた魔法を魔族の住む世界で、大爆発させ、数々の事件を起こした。それで、今まで住んできた魔族の世界では、大悪党という存在になった。それに人間の世界では、万を超える人を倒し、両方の世界で、大悪党になった。それからずっと、両方の世界で、悪さをし続けた。そして、最後に私は、両方の世界に『馬酔木の山で待ってる』という手紙をばらまき、ケンカを売った。
「来たぞっアセビっ、今日こそお前を倒すっ」
「アセビ、もう、あの時の私たちでは、ありません。全力で、あなたを倒しますっ」
魔族の全軍。人間の全軍が、私一人に向かって、襲いかかって来た。私は、全魔力を自分に注ぎ込み、巨大なドラゴンに変身した。
もう、そうなった私には、理性などは、無く、大暴れをした。
「「だああああああっ」」
大暴れする私を魔族と人間が、協力して倒そうと、している。やっと、叶えられたよ。これで、私もお父さんのところに行けるよ。
満足すると、私は倒された。その後、魔族と人間は、今回の戦いで、協力して戦ったことで、互いの強さを知り、認め合い平和に過ごしているんだとさ。