第6話 平野琵琶という人
私の名前は平野琵琶。
陰陽師協会の会長兼、県立山富高校の生徒会長をやっております。
二つ年下の妹がいて、おそらく嫌われてると思います。
あと、私は基本小心者です。
生徒会長やっているときは落ち着いているように見せていますが、内心すごく緊張して毎日を過ごしております。
そんな私には、密かな野望があります。
───それは、二ノ前九十九様を次期協会会長にすることです。
九十九様は、私なんかよりずっと、もっと、実力があります。
だから、私はすぐにでも九十九様に会長の座を譲りたいんですけれど……
どうやら九十九様は、出世なんかに興味がないようです。
「コンコン」
「誰?」
手元の資料を見やったままそう聞くと、不機嫌そうな声が聞こえました。
「九十九だけど。」
私はハッとして、
「入ってください。」
と言う。
噂をすれば、というやつでしょうか。
「いらっしゃいませ、九十九様。」
私が言うと、九十九様は私を見て、
「おい、琵琶。」
ほおをピクつかせて、九十九様が入ってきた。
何を怒っているのかは、私のせいですから、わかります。
仕事が増えて怒ってるんでしょう。
さっき電話した際はそんなに怒っていらっしゃらなかったのに………
私の顔を見たら、怒りが戻ってきてしまったのでしょうか。
「琵琶、仕事多すぎっ!あと、もうちょい安全な起こし方を考えてくれっ!」
九十九様が叫んだ。
「すいません。」
「ごめんと思ってないだろ!?」
九十九様は叫んで、カバンの中から除霊具を取り出し、私の机に叩きつけた。
「はいこれ、返すっ!」
そのまま、目の前のソファにドスンと腰掛ける。
頼みたかったことが、言えなくなってしまいそうです。
でも、言わないと周りの人に迷惑かかってしまいますから………
「あの、九十九様。」
私が声をかけると、九十九様がビクッと体を震わせて、
「やだ、やらないからなっ!」
と叫んだ。
「浜辺に出る幽霊、という噂がありまして。」
「やだって言ってんじゃねぇか!」
そんなこと言われても、私だって仕事なんです。
私は無視して続ける。
「それを、九十九様に祓っていただきたいのです。」
「ほら、ほら、言うと思った!でも、そろそろアヤカシたちへの言い訳が苦しいんだけどっ!?
それに明日は、秋穂さんと遊びに行くんですぅ!」
秋穂さんっ!
余計なことをしないでください!
「いっその事、陰陽師をやってるってアヤカシに話しちゃったらどうですか?」
と聞くと、九十九様がイラついた目で私を睨んだ。
「そんなことしたら、迷惑かかるでしょ、嫌な思いするかもしれないし。」
「そんなこと気にしてるんですか?」
「そんなことって……昔からお世話になってるし。」
「そうですか。」
アヤカシなのに。
九十九様がなんでそんなこと考えていらっしゃるのでしょう。
九十九様だったら、妖狐だろうと何だろうと関係ないでしょうに。
「それじゃあ、来週でいいので、来週でお願いします。」
九十九様は、私が引かないことを悟ったのか、諦めたようにため息をついた。
「仕方ねぇなぁ。じゃ、なんか言い訳、考えてよ。琵琶、頭いいでしょ。」
細目になって、こちらを睨んでくる。
「……分かりました。じゃ、考えます。」
と言って、私は立ち上がり、九十九様の前にコーヒーを置いた。
九十九様はそれをすすって、
「伊知郎の家に行くって言い訳は流石にもうきついんだよぉ。」
と涙目になった。
「じゃあ、生徒会に入ってください。」
「それは、あっちの九十九に迷惑をかけることになる。」
「どうしましょう。」
「それを考えてよ、琵琶。」
九十九様は不満げだ。
そんなこと言われましても……
私が解けるのは、学校のテストの問題くらいなものです。
だいたい!
陰陽師がアヤカシと同居している時点で由々しき事態なのですよ!?
なにをのんきにしているんですかっ!
あんな、あんなものどもと………
でも、私よりももっとずっと九十九様の方がお強いので、その言葉を口にすることはできません。
「あの、九十九様。」
私は話をそらすために、ゴホンと一つ咳払いをしてから言った。
「今度の、オンリーワンチャンピオンシップには出られますか?」
「それ、わかってて聞いてない?」
呆れたような顔をして、九十九様が言う。
まぁ、わかっていますけれども。
オンリーワンチャンピオンシップというのは、陰陽師界の最強を決める妖術対決………でした。
一昔前まで。
でも、九十九様が出るようになると、そのチートスキルで当然のごとくチャンピオンになってしまわれるので、数年前に殿堂入りし、オンリーワンチャンピオンシップは、陰陽師界のNo.2を決める大会に成り下がったのです。
九十九様は、たくさんのところに影響を及ぼしていらっしゃいますから。
「出ないんですね?」
「出ないよ。観覧は行く。今年は面白そうなやつ出るのかなぁ。」
九十九様の意識がそっちに行かれたみたいで、ホッとする。
「どうでしょう。九十九様の興味をお引きになる方となると、相当の陰陽師になりますから、難しいかと………」
「じゃあさ、秋穂さんは出るの?」
九十九様がこっちを向いて聞いてきた。
「え〜っと、秋穂さんは審査員側に回られるレベルの方ですから。………というか、本当なら九十九様にも審査員をやっていただきたいのですが。」
「やぁだぁ!つまんない〜。だって審査員なんてやっても、俺から見たら全員十点が限界なんだけど!」
九十九様は異常ですからね。
「そんで?言い訳、思いついた?」
「そうですねぇ………こういうのはどうでしょう。」
私はコーヒーカップを机に置いた。
「私と付き合っているということにするのは」
「却下!」
途中まで言って、光の速さで却下された。
「あっちの九十九に迷惑がかからないようにしてって言ってるんだけど。」
「確かに、迷惑がかかりそうです。すみません。」
私は素直に頭を下げる。
「オレ的にはさぁ。」
九十九様がカラになったコーヒーカップを右手の人差し指で回しながら言った。
「アヤカシたちすっごく良い奴らだから、ちょっとくらい矛盾があっても大丈夫だと思うんだよね。」
アヤカシが………良い奴?
理解できません。
アヤカシがいるから、私たちは仕事をしなければならないのですよ?
アヤカシが、人間に害を及ぼすから。
それを……それを……!
アヤカシ討伐数協会一位の九十九様が、アヤカシを、“良い奴”だなんて!
………信じられない。
何が、九十九様をそうさせたんですか?
昔はあんなに、アヤカシを憎んでいたのに、いまのこの変わりようは………
私が塾考していると、急に会長室の扉がけたたましく叩かれました。
「どうぞ。」
一つ咳払いして、“協会会長”の顔に戻る。
「失礼しますっ!」
ものすごく慌てた声が、耳に響く。
飛び込んできたのは、協会で事務仕事をやってくれてる事務員さんですね。
「どうしたんですか?」
その慌てように、私は立ち上がった。
「あの、任務に出ていた陰陽師が、怪我を負いまして。」
「ひどいんですか?」
事務員さんはソファでだらけている九十九様をちらっと見てから、
「はい。ひどいんです。」
通りで、私を呼びにきたわけです。
陰陽師は、その人の霊力量によって、怪我を治せる範囲が限られています。
琴は何もできませんが、秋穂さんや私なんかは他人の怪我も治せます。
九十九様は言わずとも、です。
どんなに傷ついていても、一部が残っていれば、完璧に治せます、異常です。
「アヤカシは討伐できたのですか?」
私が聞くと、事務員さんは首を傾げた。
「さぁ。」
九十九様に様子を見てきてもらおうとソファの方を見ると、九十九様は既にいなかった。
相変わらず、行動がお早いです。
「じゃあ、その陰陽師の方へ連れて行ってください。」
「承知しました。」
事務員さんに連れられて、私は医務室についた。
うっ………
入った途端、思わず顔をしかめた。
「ひどいですね………」
外傷はない。
でも、何か毒を盛られたようだ。
「おそらく、大量の恐怖を毒に変換して打ち込まれたのではないかと思われます。」
事務員さんが言った。
じゃあ、結構なツワモノだったわけですね。
アヤカシが持っている“恐怖”というのは、アヤカシの強さに比例します。
それを毒に変換して打ち込み、さらにこのような状態にするほどとなると………
「治療、できそうですか?」
不安そうな声が聞こえてくる。
私はそれには答えず、横たわっている陰陽師の方へ向かった。
顔が苦痛に歪んでいる。
内部の毒を取り除くのは………流石に難しいのでは?
………九十九様がいたら、すぐに……
でも今、現場検証にいってらっしゃいますし。
私はしばし考えた。
四、五分だったと思う。
と、その時、医務室の扉が空いた。
外から入ってきたのは………
「九十九様っ!?」
読んでくださってありがとうございます!!
久々の更新になりました。
あと、助けてください。
琵琶のキャラがつかめなくて泣きそうです。
皆さんの考えてる琵琶はこんな感じですか?
教えてくれると嬉しいです、助かります。
というわけで、また次の投稿でお会いしましょう!