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第59話  開幕アナウンスが厨二病すぎる

 審査員席に琵琶が合流すると、一気に皆さんは静かになった。

一部を除いて。


秋穂さんと向葵は基本オレと喋るし、康記さんと邏寿さんもそこ二人で喋ってる。

琵琶は立場上ペラペラ喋るわけにもいかないのか、キュッと唇を引き結んで座っている。


真面目にもほどがある………

「ねえねえ九十九くん。」

「え、な、何、秋穂さん。」

琵琶を呆れ半分尊敬半分で見ていたら秋穂さんが話しかけてきた。


「最初の挨拶九十九くんがやろうよ。」

「え」

「いいでしょ?琵琶」

「もちろん構いませんが………」

「待って秋穂さん。オレなんも考えてない。」

「僕がお手伝いしましょうか?」

「ちょっと待ってて向葵。今全力で断るから。」

「しかしあなたを差し置いて私が発言するというのは………」

「そうだよ九十九くん。せっかく君がいるのに君が喋らないなんておかしいよ。」

「嫌です嫌です嫌です嫌です。絶対嫌です。目立ちたくない。絶対嫌です。」

「いいや君は目立つべきだよ。ということで、よろしくね。」

「絶対嫌です!あっちの九十九に迷惑かかったらどうするんですか!!」

この陰陽師たちの中であっちの九十九のこと見かけてオレだと勘違いして話しかけるような奴がいたら本っっっっっっとうにダメなんだから。


「ダメ、ダメですダメ、死んでもダメ、絶対にダメ!!秋穂さんも康記さんも邏寿さんも面白がらないでください頼むから!」


なんで大人たちってのは若者に無理をさせたがるんだ!

康記さんだけはせめて反対して欲しいんだよ、俺が知ってる中で、今ここにいて、一番まともな大人はあなただから!


「オレは絶対にやりませんからね、オレ人前に立つとあがっちゃうんです、絶対変なこと口走っちゃいますから、どうか勘弁してください!それに、オレは自分が一番強いことを誇ってるだけで驕りたいわけじゃないんですから!」

「真面目だねー九十九くんは。もっとみんなに自慢して回ればいいのに」

「やですよ。オレそんな傲慢?みたいなやつになりたくないです。オレはできるだけ敵を作らず人と仲良く生きていきたいんですよ」

「陰陽師やってる限り無理だと思いますよ

康記さんが冷静に言う。黙ってください、オレだってわかってますから。


「それにオレなんもいいこと言えません。あいつらを鼓舞するとか、そんなうまいことできない。やっぱ琵琶がやるべきだよ。慣れてんだろ?」

「慣れてはいます、けど、でも、九十九様がいらっしゃるのにわたくしが前にしゃしゃり出るのはどうかと思います。」

「琵琶にもそれくらいの常識があったようで安心したよ!」

秋穂さんがニコニコして言う。この人ってずっと怖いんだよ、今日は特に。

どうしたんだ。キャラ崩壊がすぎませんか。この間まであなたこんな感じじゃなかったでしょうに。


「……原稿考えてくれるならいいですよ。」

ノーと言える雰囲気ではなかったので、しぶしぶ折れることにした。


「いやあでもなあ。ボクらごときが考える原稿なんてとてもとても!」

「秋穂さん!焚きつけるだけ焚き付けて放置はひどいと思います!」

「九十九様。あと五分で始まりですよ。選手たちもあなたが審査員をやると知ってからあなたを見るのを楽しみにしているのでしょう。さっきから下では九十九様の話題ばかりです。」

ああ困った。そんなに期待されているのに半端なことはできない。


……ええい、どうにでもなれ!


 オレは開始時刻になるまで何も考えないことにした。

変に考えすぎてもきっと忘れて全部は伝えきれなくて、あとでそれを後悔する事になる。そんな事になるくらいなら考えない方がマシだ。


 つまりオレが今やらないといけないことは。


 オレは後ろを向いて向葵に話しかけた。


「向葵。オレは多分今からグダグダな挨拶を繰り広げるが、そんなオレでもどうか軽蔑したりしないでくれよ。」

「当たり前じゃないですか九十九様。もし僕が同じ立場にあってもきっと緊張して声も出せないと思います。覚悟を決めてちゃんとみんなを鼓舞しようとしている九十九様はすごいんですよ。」

「向葵……!」

男前だ。今この場にいる誰より男前だ。

顔だけは男前の、オレを生贄にした大人たちとは違う。



 向葵の男前っぷりに感動しつつ

そんなこんなで五分後。


琵琶のアナウンスがまず入る。毎年お決まりの、無感情なアナウンス。


「会場にお集まりの陰陽師の皆様。本日はオンリーワンチャンピオンシップで存分にご自分の技を披露してください。審査員一同楽しみにしております。」

そんでもって、いつもと違うのはここから。


「では、審査員を代表し、我が協会トップの実力をお持ちのニノ前九十九様に、ご挨拶いただこうと思います。九十九様、どうぞよろしくお願いいたします。」


生唾を飲み込む。

頭がクラクラする。今すぐ倒れてしまいそうだ。足に力が入らないし、手汗もひどい。声もうまく出るかわからない。咳払いを5回もした。


琵琶から渡されたマイクを握る。

さっきまで琵琶が立っていた、観客席やステージから見えるスペースまで移動する。スポットライトがオレの方を向いて影を作った。


「ん、んっ。えー、年齢性別使う技全てが十人十色の陰陽師の皆さん。こんにちは。初めましての方は初めまして、ニノ前九十九です。今回初めて審査員をする事になりました。あー、えっと」

自己紹介が終わって何を言っていいのかわからなくなってしまい、言葉に詰まる。


頭を掻きながら続けた。


「正直こういう機会でないと他の人の技をみることってないと思うんです。オレにとってもそうですが。他人の技をみることは成長に繋がるんじゃないかっていうのがオレの持論です。自分が今まで手を出したこともないような畑の技を目にすることもあるんじゃないかな。そういうのバンバン吸収して、自分の技と能力を高めるために使ってください。あーえっと、うん。オレからは以上です。まあなんだ。楽しんでください。応援してます。」

敬語も抜けてるし、いいことなんか一つも言えてないのに。言いたいことの半分も言えなかったのに。なのに。


雷のような拍手がオレを包んだ。

知名度のせいもあるだろうが。みんながすごくキラキラした瞳でオレを見つめてくる。


───厨二病臭すぎて、言うのを躊躇っていた言葉がある。


でももういいや、言ってしまえ。この拍手の音で全部かき消されてしまうだろうから。


オレは息を吸い込んだ。声をふるわせるわけにはいかない。絶対にみんなに届けなきゃ。


「勝つとか、そんなのは一旦置いておいてどうか楽しんで欲しい。素晴らしい技を見たら褒めてやって欲しい。張り合うことはしすぎないようにして欲しい。向日葵をタネから育てるように、その花がいつか太陽に向かって大きく伸び上がるように、そうなるようにだれかのことを褒めてやって欲しい。そうやって仲を深めて欲しい。オレはそれだけお願いしたい。」


困ったことに、オレが話し始めた途端拍手はやんだ。

つまりオレの恥ずかしすぎるスピーチは全部聞かれてしまったのだ。


でも。


話し終わってから万雷の拍手という言葉では伝えきれないほどの拍手がおこった。

会場が壊れるんじゃないかというくらいの音で、なんだか地面が揺れているような感じがして。


頭にのぼった血がすっと戻って行くのを感じて、あまりに安心したからオレは倒れてしまうかと思ったのだった。

 読んでくださってありがとうございます。実に一年以上ぶりの更新となっていることに驚きを隠せません。本当に申し訳ない。夏休みの宿題に追われている今日この頃ですが続きを書いていけたらなと思っています。これからもどうぞよろしくお願いします。


それでは近いうちに次のお話でお会いしましょう。

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