第三話 少年陰陽師はどんなに強いアヤカシでも余裕で倒す。
「ん、なぁ〜!」
オレはその声で目覚めた。
机に手をついて身を起こすと、床にスマホが転がっている。
「あ、アイツ、落としやがったな。」
と呟くと、スマホから声が流れ出た。
「九十九様、お目覚めですか?」
オレの目が点になった。
「琵琶!」
「お仕事ですよ。」
琵琶はそう言った。
そっか、仕事か。
「え、仕事っ!また?」
オレは叫んだ。
「まぁまぁ、そう言わずに。陰陽師は常に人手不足でございます。」
その通りだけど、その通りだけどっ!
「で、今度は何なの??」
オレは机の上の教科書を片付けながら聞いた。
「学校で、不審者の話がありましたでしょう。」
琵琶はそう言った。
「あ〜、まぁ、確かに。あっちの九十九が聞いてたっぽいね。」
あっちの九十九。
オレは陰陽師じゃない九十九をそう呼んでる。
え〜っと、自己紹介がまだだったな。
オレはニノ前九十九。
[ニノ前九十九]の一つの体には、オレと、あっちの九十九の二人が同居してる。
オレが目覚めることができるのは、琵琶がオレの名前を呼んだときだけなんだ。
あっちの九十九は陰陽師のことなんて全然知らない。
同居してるアヤカシたちも、[ニノ前九十九]が陰陽師だってことは知らない。
オレは、最初隠しとかなくてもいいんじゃないかと思った。
でも、時たま一日中オレが九十九である時に思うんだ。
あぁ、このアヤカシたちは、オレが祓ってる奴らと全然違う、って。
オレが祓ってる奴らは、どす黒い。
アヤカシは基本自我があるが、自我があっても人の姿をしていられないのは、その魂が汚れきってしまっているからだ。
つまり。
あのアヤカシたちが、人間の姿に化けたり、その姿のままでいられるというのは、その魂というかアヤカシの核が、とても澄んで、清らかだからだろう。
「お話、続けてもよろしいですか?」
「あぁ、お願いしまぁっす。」
オレがそう言うと、琵琶は安心したように息をついて、
「その不審者というのが、アヤカシに操られていたようなのです。」
「え?ってことは結構な…」
「手だれです。」
琵琶はその先を引き継いだ。
「今、琴が向かっています。しかし、あの子の手にはどうも余るようなアヤカシかと。」
「分かった。」
「結構夜遅くなると思いますよ。」
「あっ。」
どうしようか。
大抵の場合、天体観測でどうにかしているものの、そうなんども天体観測に行っているのはおかしい。
え〜っと、どうしようかなぁ。
心配させたくないんだけど、あのアヤカシたち。
あ、分かった!
「琵琶、今回のアヤカシ、除霊具を使ってもいい?」
「もちろんです。」
除霊具。
アヤカシを祓うために使う道具だ。
かなりデカイのもあって、それを入れて、さらに上からタオルを詰め込んで、お泊りセットみたいにして…
友達の家に遊びに行くことにしておこう。
ついでに泊まる、と。
大丈夫、あのアヤカシたちはとても優しいから。
オレは大きなバックに一つだけ除霊具を入れて、上にタオルとパジャマを詰め込んだ。
それから、それを担いで一階に降りる。
もちろん、さっきあっちの九十九が食べたおやつの乗った皿も一緒に。
「すいません、百狐さん。」
とオレは言った。
オレはあっちの九十九と記憶を共有してる。
だからあいつの身に起きたことは全部知ってるし、あいつがどんな性格かも熟知してる。
「友達が、遊びに来いと。あちらに泊まるので、今夜の夜ご飯はいりません。」
「分かったわ。あちらのご両親によろしくね。」
百狐さんはにっこり笑った。
「はい。」
オレはそう言って外に出る。
こんな時間になっても外出を許してくれるなんて、本当に優しいな。
オレは歩きながら、琵琶から送られた地図を見た。
近くにあるのは……アパートかぁ。
筑後五十年、ねぇ。
これはまぁ、ちょー強いアヤカシがいてもおかしくないね。
えっと、アヤカシが生まれる原理、というか理由に、
○人が怖いと思う気持ちを形作ったもの
○怖いという思いが強ければ強いほど、アヤカシも強くなる
というルール?があって、オンボロアパートとかオンボロ旅館とか、オンボロ無人駅とかは、ほんのちょっと音がしただけで、“怖い”ってみんなが思うわけ。
でまぁ、今回の現場はまさにアパート!
そりゃあ、強いアヤカシがいても納得ご納得、ってとこ。
……でも、琴がすでに行ってる、っていうのはちょっと不安。
琵琶はすごい強いけど、琴はそんなに、ってオレは思ってる。
基本、アヤカシや陰陽師にはランクがないけど、オレの中のはオレ独特のランク付け、上、中、下っていうのがある。
琵琶は上の中位。
でも琴は中の中……くらいかなぁ。
つまり、普通ってこと。
もう空は真っ暗になっていた。
月が明るく輝き始めていた。
現場のアパートに到着すると、禍々しいオーラが全開になっていた。
「これは……琴がやられてる可能性があるかもしれないなぁ。」
とオレは言った。
とりあえず、一番高い木の上に登って様子を見た。
琴を探す。
「あ、いた。」
いたんだけど……
思っきし苦戦してるし。
防御用に作ったバリアがアヤカシにぶっこわされ、大きく吹っ飛んでオレがいまいる木にドシッとぶつかった。
木が揺れる。
しかし意地で落ちるわけには行かず、しがみついた。
下では琴が、
「チッ、弱いくせに!」
と悪態をついているものの、オレが見る限り、これは上の中……琵琶がやってちょうどってレベルのアヤカシだ。
流石に琴には手に余ってしまうと思う。
しばらく見ていようかなぁ、と思った矢先。
「あっ!」
思わず声を上げてしまうほどの衝撃。
防御のために琴が目の前に除霊具をかざすと、それごと骨をおられたらしく、再起不能になっていた。
仕方ない、行くか。
と思いながら下に降りて、琴の方へ行こうとすると、気づいた。
オレいま、九十九の体なんだ。
覆面着けてるわけじゃないし、顔でバレたらあっちの九十九の人生に影響する。
オレは地面にカバンを投げ出して、漁った。
ちょうどよく、黒いローブを入れてある。
それを目深にかぶると、除霊具を持って、琴の方へ向かった。
「お〜い。」
キャラもかえる。
オレでも、あっちの九十九でもないキャラになり切る。
「な、あんた誰よ。」
と、琴がオレをにらんだ。
助けに来てやったのに、この態度ってひでぇ!
オレはその態度を出さないようにして、笑い声をあげた。
「何よ、何がおかしいの?」
「だって、へへ、えへ、お前、除霊具おられてるし、もう霊力も残ってないでしょ。どうすんの?オレ、ほっといてもいいんだけどなぁ。」
「じゃ、ほっとけば?」
「あ、そう。じゃあ。」
と言ってオレが立ち去ろうとすると、琴に腕を掴まれた。
「なぁにぃ?」
「助けさせてやらないこともないわ。」
「へぇ、自分では無理なんだぁ。」
とオレは舌で唇を舐めた。
「じゃ、行ってくるね。」
「気をつけなさいよ。このアタシでも手を焼くような相手なのよ。」
と、琴は言った。
んなこと言われても。
友達によると、オレは最強らしい。
アヤカシの目の前に立って、屈伸。
一応、聞いてみる。
「何か、言い残すことはある?」
「………」
「ないよね、アヤカシだもん。」
オレはにっこり笑った。
「じゃ、遠慮なく。」
刀の形をした除霊具の柄を持って引き抜いた。
すらりとした刀身が露わになる。
ブン、と一振り。
二、三回軽くジャンプすると、足に力を込めて思い切り飛んだ。
アヤカシの、頭と呼べる部分に、振りかぶって思い切り刀を突き刺した。
刀をそのままに、飛び降りる。
「あんた何やってんの?そんなのでは無理に決まってるじゃない!」
琴は叫んだ。
「大丈夫大丈夫〜。」
オレは呑気にそういうと、右手の人差し指をクッと曲げた。
すると、アヤカシの頭に一段と深く突き刺さる。
もちろん、これだけではダメとわかってるので、曲げていた指を伸ばした。
すると刀が戻ってくる。
右手でしっかりと握り直すと、クルンと回す。
強く握ると、振りかぶった。
「な、あんた、何する気!」
と叫ぶ琴は無視。
オレは集中したまま、つぶやいた。
「霊力調節 癸 刀操術 火花」
そのまま、刀を投げる。
アヤカシの頭に突き刺さった。
「お、ナイスショットォ。」
オレはそう言って、最後の仕上げをすることにした。
足を伸ばして、片足を軸にして一周にした。
つまり、オレが円の中にいることになる。
そして、円の真ん中に線を引くと、そこらへんに落ちていた木の棒を取って来て、線の約真ん中に突き刺した。
「よしオッケー。」
と言って、オレは琴の方に戻った。
「ちょっとオッケーって何?」
と琴が言ったとたん、後ろでアヤカシが爆ぜた。
「ね、大丈夫って言ったでしょ。」
とオレが言ったとたん、ポケットに入れていたスマホが振動した。
「電話か?」
と言うと、ご名答、琵琶からだった。
「もしもしぃ。」
と言うと、琵琶が、
「九十九様、おやすみなさい。」
と言った。
ちぇ、もう、かよ。
オレはゆっくりと節々から意識を引いていった。
一日一話投稿と言いながら二日ほど間が空いてしまいました。
読んでくださった方、誠にありがとうございます。
今回の話からちょっと設定が複雑になります。
主要メンバーが出揃ったら設定集を出します。
これからもよろしくお願いします。