第29話 元気すぎる伊知郎
次の日。
珍しく一人で学校に行くと、伊知郎はすっかり元気になって、それどころか、
「そんでさ、その女がさ、俺たちのことを襲って来たのよ!」
「まじか!こっわ!」
と、武勇伝のように語っている。
元気になって何よりだけど、少しは反省してくれ。
頼むから。
またあんなことになったらどうするんだよ。
まぁ、でも。
元気そうで何より、だけど、さ。
伊知郎を見ていると、伊知郎はこっちを向いて、口パクで、
『あ・り・が・と・う』
と言ってきた。
ニカッと笑っている。
『ど・う・い・た・し・ま・し・て』
と返すと、ますます口角をあげた。
伊知郎はすごく元気そうだけれど、なんだかぼくは体が重かった。
多分、精神的な問題だと思われるけれども。
でも、食事も喉を通らない、とか、そんなにひどいわけじゃないから、特になんの苦労もない、けどさ。
「おはよ〜。」
と菅原先生が入ってくる。
伊知郎を囲んでいた男子たちは、次々と席に戻る。
そういえば伊知郎、陰陽師さんのことは覚えてない、のかな?
それとも、見てなかったのかな?
まあ、あんまり言いふらされない方がいいけどさ。
ぼくは菅原先生の話を聞きながら、外を見た。
めっちゃいい天気。
外から中に入ってくると、エアコンが涼しくて幸せだよね。
授業が始まる。
一時間目は理科。
みんな、一時間目は眠い。
けど、理科はマジで眠い。
もう、先生の声が子守歌なんだよ。
例えようもない感じの心地いい声なんよ。
じいちゃん先生。
理科の授業でものすっごく眠くなったあと、その次の英語の、ネイティブの先生のハキハキした声で目がさめる。
英語のあと、体育でめっちゃ汗をかく。
体育館でも、外でも、どっちにせよ暑いよな。
ってか、風が吹くぶん、外の方がマシ。
体育が終わると、めっちゃお腹空いている中、数学。
ちなみに、数学の先生は新しい女の先生なんだけど、
「で、ここを………」
と言った途端、お腹の音が鳴り、
「先生のお腹が限界値を迎えたようです。」
と言って微笑んだのが可愛いと言われていた。
弁当の時間。
ぼくが食べていると、
「なぁなぁ。」
と、前の席の男子が話しかけてきた。
「お前、昨日伊知郎と一緒に行ったんだろ?どうだったんだよ。」
「え?あぁ、んー………」
「謎の女、いたのか?」
どこか嬉しそうな顔で言われる。
「え?あぁ、うん、いたよ。」
ぼくはおにぎりを口に押し込む。
あ、しゃけ味だ。
しょっぱい。
美味しい。
「マジでっ!?すげぇ!」
「あはは。まぁ、ね。でも、めっちゃ怖かったよ。」
わざと怖い口調で言うと、
「マジかよ。こえー。」
友達は完全に俺の方を向いて、ぼくの机に弁当をおいている。
「自分の机で食えよ!」
「やーだね。」
「………」
ほおを引きつらせる。
仕方なく、卵焼きを食べる。
続いて、きゅうりの漬物。
結局、友達はぼくの机で給食を食べた。
その日は、なんの異変もなく終了した。
次の日も、その次の日も、何も起きなかった。
───そして、土曜日の朝。
「ふぁ〜。」
とあくびをして起き上がった。
平日は早く起きるのがおっくうなのに、休日に限って早起きするとなんだか損をしているような気分になる。
ただ、眠いのは変わらないので、ベッドの上でスマホをいじることにした。
ぼくにはお気に入りのゲームがある。
パズルゲームのようなスタイルで、ついつい前のめりでやってしまう。
腰と目と手が疲れるゲームだ。
「イェーイ、ステージクリア。」
ぼくがそう言ってにっこりと笑った、その時だった。
スマホが振動した。
ピコンと上からタグが見える。
「あぁ、電話か。」
誰だろ。
___”平野琵琶先輩”___
あぁ、琵琶先輩ね。
最近はかかってこなかったからなぁ。
あ、そうだ!
月曜日のお礼言おう。
とりあえず、言おう。
「はい、もしもしニノ前です。おはようございます。この間はありがとうございました。」
ぼくが言うと、
「おはようございます。………この間?」
不思議そうにされた。
「いや、あの、月曜日、ぼくが女子に囲まれたときに………」
「あぁ、理寿さんがいらっしゃったときですね。どうぞお気になさらず。」
ぼくがしどろもどろで説明すると、琵琶先輩はポンと手を打った。
「本当にありがとうございました。」
「いえいえ。………さて。おはようございます、九十九様。」
ハキハキとした琵琶先輩の声を最後に、ぼくは寝息を立て始めた。
読んでくださってありがとうございます。
なんか投稿頻度高くない?って言っている私はもう末期。
全国の皆さーん。
夏休みの宿題は終わっていますか?
私はあと少しです。
今日あした中に終わらせようっと。
さて、週末の九十九くんはお仕事ですね。
あ、そうだ。
次の話は、私がずうっと書きたかった話の一つです。
どうぞお楽しみに!
それでは、次の話でお会いしましょうっ!




