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第15話  ミックのポテト

 「すごいよ九十九つくもくん、こんな値段でこんないいのが買えるんだね!」

300均で買ったガラスコップの入った袋をガシャガシャふりながら、秋穂あきほさんは興奮したように叫んだ。


 多分、普段こんな安っぽい店になんて入らないんだろうなぁ、と思わされる発言である。


「あまり大声で騒がないでください。あと、あまり袋を振ると割れますよ。」

周りの人が、どこの金持ちだ、と言う顔をしているのが嫌で、オレはそう注意した。


「あ、ごめんごめん、つい。」

秋穂あきほさんは持っていた大きなショルダーバックにその袋を大切そうに入れた。


 すると、

「ぐ〜、キョロロロ」

と、盛大に腹の虫が鳴いた。


「ちょっと秋穂あきほさん、何やってるんですか。」

オレがくすっと笑った途端、


「キュルル〜。」

と、オレの腹も悲鳴をあげた。


 まるで、

『オレだってお腹が空いてるんだよ、早くご飯を食べようよ。』

と訴えかけているみたいだったので、オレと秋穂あきほさんは顔を見合わせた。


 示し合わせたように、

「「よし、ミック行こう。」」

と声を揃える。


 「どこ?」

近くの地図を覗き込みながら体を揺らす秋穂あきほさんを見て吹き出して、


「ここですよ。」

と地図の端の方を指す。


「遠いね。」

「遠いですよ。」

オレが地図を見たまま答えると、秋穂あきほさんがニヤッと笑った。


「な、なんですか?」

秋穂あきほさんの顔を見ると、先ほどの企むような顔は何処へやら、いつも通りの綺麗な顔に戻っていた。


「何が?」

と首を傾げられてしまっては、もう打つ手がない。


 ちぇ、イケメンは得だなぁ。


 「九十九つくもくん、ちょっとこっちきて。」

秋穂あきほさんがオレの手を引いて、近くの柱の影に引っ張って行った。


そこは誰もいなくて、隅の方にホコリが溜まっている。


「どうしたんですか?」

今度はオレが首をかしげると、秋穂あきほさんはオレの肩に手を置いて、空いている左手で指を鳴らした。


 突如、景色が変わる。

「あっ!?」

オレはとっさのことに驚いて、秋穂あきほさんの顔を見た。


さっきの、企むような顔に戻っている。


秋穂あきほさん、瞬間移動しましたね!?」

オレが思わず大声で叫ぶと、秋穂あきほさんは右手の人差し指を自分の唇の前に持ってきて、


「しーっ」

と言った。


オレは慌てて周りを見回してから、小声で、

「なんで一般人がたくさんいる前でやるんですか!」

と怒った。


「だって、遠いじゃん。九十九つくもくん、いまにも、腹が減って倒れちゃう、って顔してたんだからね、気づいてないだろうけど。」

「ん………」

確かにそうだけど、それにしたって………


「ほら、さっさと入ろ?」

遠かったはずが、今は目の前にあるミックを指差して、秋穂あきほさんは尋ねるような顔をした。


オレは仕方なく、

「はいはい。」

と返事をした。



 中に入ると、たくさん人がいて、行列ができていた。

九十九つくもくん、何がいい?」

「じゃ、この、シュリンプフィレオで。」

「オッケー。じゃ、ボクもそうする。飲み物は?」

「オレンジジュース、氷なし。」

「わかったよ。じゃあ、どこか場所見つけといて。」

「はい。」

と返事をしたはいいものの………


 場所なんて、どこにあるんだ?

店内の椅子と机はすでに埋まっているし、もうすぐ食べ終わりそうなところは他の人が虎視眈々と狙っている。


 外しかないのかなぁ。

そう思いながら外に出て、辺りを見回すと、偽物の木の周りにいくつかベンチが置いてあった。


「ここにするか。」

と呟いて腰を下ろすと、背もたれに体を預ける。


 ゆっくりと目を閉じて休もうとすると、急におかしな気配を感じた。


「!」

飛び上がって臨戦態勢になり、辺りを見回すも、誰もいない。


何があったんだ………?


 首を傾げてベンチに腰を下ろすと、視界が少し暗くなった。


「あの………」

と声をかけられる。


「はい?」

疑問形で顔を上げると、目の前に男の子が立っていた。


「あ、君は………」

「今朝、あいました、よね?」

その子は今朝、あっちの九十九つくもが会釈をした、写真を撮っていた子だ。


今も、カメラを首から下げている。


 大人しそうな印象で、少し厚いフレームで四角い形のメガネをかけて、その奥の深い青色の瞳は日本人離れしていてとても綺麗なのだ。


「なんだか殺気立っていらっしゃいましたが、どうかしたんですか?」

そう言われて、ハッとなる。


やば、ここ協会じゃないんだもんな、一般人もいるわけだ。


「なんでもないんです。ちょっと、ね。」

オレがそう言って微笑むと、彼は納得してくれたみたいだ。


きっと、何か察してくれたのだろう。


「なんでもないなら良かったです、それでは。」

彼はそう言ってオレに頭を下げ下げ、どこかへ行ってしまった。


 ふー、危なかった。

そう思って息をつくと、今度は横に誰かが座った。


九十九つくもくん、買えたよ。………戦場だったぁ〜!」

大きく伸びをしながら、秋穂あきほさんがこっちを向いた。


「お疲れ様です。外しか場所取れなくて、ごめんなさい。」

「いいのいいの。立って食べるよりはずっとマシ。さ、食べよ。」

秋穂あきほさんはそう言って紙袋からハンバーガーとポテトとナゲットとソースを取り出した。


ハンバーガーをオレに手渡してから、Lサイズのポテトを白い紙ナプキンの上におき、こちらに押しやる。


 ───確か、セットにするとSサイズのはずだから、わざわざ二つとも単品にしたんだな。金持ち、おそるべし。


そんなことを言いながらお礼を言うと、秋穂あきほさんはナゲットの箱を開けて、ソースの蓋を剥がした。

普通のバーベキューソースとマスタードで、一番スタンダードな組み合わせだ。


 オレは大口を開けてハンバーグを頬張った。

口にソースがついたのを、舌でなめとる。


見ていた秋穂あきほさんが、

「ナプキン使う?」

と首を傾げた。


オレはそれに首を振って答えて、ポテトを放り込んだ。


 それからたっぷりソースをつけたナゲットを一口で食べ、もきゅもきゅと噛む。

ごっくんと飲み込むと、またハンバーガーを頬張る。


 プリプリのエビが口の中で弾けて、少し辛いソースが海老にピッタリ。


 食べ始めた時はお腹いっぱいにならないかもなんて思ったけど、ハンバーガーだけでもまぁまぁお腹がいっぱいになって、満足しながらポテトを三本、一緒に口に入れた。


 秋穂あきほさんが、

「美味しそうで何より。」

と微笑んでいたのだけれど、その口の端の方にはソースがついている。


秋穂あきほさん、ここ、ついてます。」

オレが自分の唇の端を指差すと、秋穂あきほさんは長い舌でそれを舐めとった。


 美しい形の唇が歪み、大人の色気と呼ぶべきものが漂う。


 「秋穂あきほさん、舌長いんですね。」

見ていたオレがそう言うと、秋穂あきほさんは少し嫌そうな顔をした。


「ボク、舌が長いのはあんまかっこいいって思わないんだよね。」

「そうなんですか?オレはいいと思うんですけど。」

「ん〜、ならいいかぁ。」

秋穂あきほさんがほおを緩める。


 オレはそれにつられて微笑んで、またナゲットを口に入れる。

すると。


 「九十九つくもくん、目ぇ閉じて、口あけて。」

「?」

オレは首を傾げながらも、目を閉じて口を開けて見せた。


下に何かが乗って、

「食べてみて。」

と言う秋穂あきほさんの声がするので、目を閉じたまま何度も噛む。


そして、

「!」

と目を見開いて、

「っ、あ、あぁっ、っ、んっっ!!」

か、辛い!!


秋穂あきほさんっ!」

オレが叫んで睨むと、秋穂あきほさんが引き笑いをして、


「っはっはっは!マスタードたっぷりにしたんだぁ。」

といじわるに言った。


「もうっ!」

オレがそっぽを向くと、秋穂あきほさんは両手を使ってオレの顔を自分の方へ向けさせて、


「もうしないから、ごめんね?」

と言って首を傾げた。


 うっ………

その顔は反則だ。


 美しいグレーの瞳が潤み、少し上目遣いに見上げられて眉がひそまっていて、左手で髪をかきあげていて、あぁ、勝てないと感じてしまう。


「ゆ、許しますっ!」

オレは悔しさに顔をしかめて、仕方なく言った。


ふふ、とわかっていたように笑う秋穂あきほさんがあまりに美しくて、もう何も言えなくなった。


 仕方なく、大口を開けてポテトとナゲットを交互に頬張る。


秋穂あきほさんはそんなオレの様子を、楽しげに見つめていた。

 読んでくださってありがとうございます!!


ミックってなんのことかわかりますか?

わかりますよね、だいたい。


 秋穂さん、舌長いんですって。

私あんまり舌長い人見たことないから、想像はあんまりつきませんけど。


 次は買い物と、秋穂さん家に向かおうとしてる感じになるかと。


 それでは次のお話でお会いしましょうっ!

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