第14話 大人の余裕
「ふんふ〜ん。」
しばし、車内に秋穂さんの鼻歌が響く。
「ご機嫌ですね。」
そう言うと、秋穂さんは前を向いたまま答えた。
「当然。久々に九十九くんと出かけてるわけだしねぇ。」
「あはは、確かに。最近は人と出かけたりしてないなぁ。アヤカシたちと一緒に行くわけにはいかないし。」
「そりゃそうでしょ。」
真面目な声で秋穂さんが言う。
オレはその真剣な空気が嫌で、わざと明るく、
「そういえば昨日、久しぶりに理寿とも遊びに行ったんです。」
「………理寿くんと?」
遅れて、秋穂さんが反応してくれる。
「はい、理寿と。オレが忙しいのを心配したみたいで。」
あと、普通に二人とも楽しくなるし。
「ふうん、そっかぁ、仲良いもんね、幼馴染だもんね。」
その言葉に、どこか投げやりな、諦めたような響きがこもっていて、首をかしげる。
秋穂さんはゆっくりと右手で探るようにボタンを探し、自分の座席の窓を開けた。
髪が風でパタパタと舞う。
「………め。」
なんらかをつぶやく。
「どうしましたか?」
風の音で聞こえなかった。
「なんでもないよ。………それより九十九くん、何食べたい?」
秋穂さんが窓を閉めながら聞いた。
また、話がさっきと同じやつに戻ってくる。
ってか窓を開けた意味、何?
「え〜っと、おす………いいや、え〜っと………」
お寿司、と言いかけたが、秋穂さんの行くお寿司はきっと回らない、一貫一貫、目の前で大将が握ってくれる、余裕で万を超えるお寿司だろう。
ンなところで、リラックスして食べられるはずもない。
「え?お寿司?」
秋穂さんは信号で停車して、こっちを向いた。
「いや、いや、いいです!えっと、ファストフードがいいです!ミックとか。」
「あぁ、いいよ。やっぱ若い子は、そういう系が好きなのかい?」
「秋穂さんだって十分若いですよ。」
と、思わず声に出してしまう。
「そりゃぁどうも。でも、ボクも結構年だからなぁ。」
最近腰が痛くって、とアクセルを踏みながら大げさに言う秋穂さんを見て、オレはクスッと笑った。
「どうしたの?」
オレが笑ったのを秋穂さんが見て、前を向いたまま首を傾げた。
「いいえ、なんでも。秋穂さんが、全く年を取っていなくてお若いのに、自分がとてもすごい年寄りみたいに考えてるんですから。」
オレが言うと、
「あっはっは。でも、九十九くんたちの年代からしたら、ボクはもう立派なおじさんだもんねぇ。」
「秋穂さん、幾つなんですか?」
「ひ・み・つ♡」
間髪入れず、秋穂さんが答える。
「わかりました、聞くのは諦めます。」
オレが言うと、秋穂さんは嬉しそうに頷いた。
「それでいいんだよ。」
大人の余裕を感じさせる声で、オレが聞くのを諦めるのなんてわかってたみたいな調子だった。
それでオレは少し拗ねて、そっぽをむいた。
それを見ていた秋穂さんが、
「もう、拗ねないでよ〜。」
と言って、運転しながらオレの方を軽く叩いた。
「ちょっと、ちゃんと前を向いてください。」
オレは恥ずかしくなって秋穂さんの手を跳ね除ける。
秋穂さんは、ふふ、と満足そうに微笑んで、ハンドルをきった。
「ほら、着いたよ。」
上手に駐車場に停めると、秋穂さんはオレに向かって微笑んだ。
オレはまだ少しむくれ顔を作りながら、秋穂さんの手を借りずに車を降りる。
「もう、まだ拗ねてるの?」
秋穂さんもほおを膨らませて、オレの後ろから両腕を回した。
「っ………ちょっと、秋穂さん。」
流石に、公衆の面前でこれは………付き合ってるわけでもないんだし。
オレはそう思いながら秋穂さんの両腕を外すと、向き直った。
「だって九十九くん、まだ拗ねてるんだもん。」
「拗ねてないですよ!」
「でも、眉が少しひそまってるよ?」
「だって………秋穂さん、オレにも歳教えてくれないんだもん。」
すっごい大人の余裕だし。
「だって、恥ずかしいんだもん。」
秋穂さんもそう言って、そっぽを向いた。
それから顔を見合わせて、どちらからと言うわけもなく吹き出した。
読んでくださってありがとうございます!!
秋穂さんと九十九の関係を周りからみると、(めっちゃ仲良い)兄弟みたいな感じらしいですよ、琵琶曰く。
あと二、三話くらいは二人の話になると思います。
いや、もっと行くかな?
頭の中では完璧に構想ができてるので、さっさと書きたいなぁと思っています。
それでは、次のお話でお会いしましょう!!