第9話 大食いの理寿と思わぬ解決策
「ほらほら九十九くん、次はあっちだよっ!」
理寿はニコニコ笑いながらオレの手を引っ張っている。
「ちょっと待て、理寿。」
「なぁに?」
キョトンとした顔をしてみせる理寿。
「あのね、さっきから何軒店を回っていると思う?」
「三軒くらいだね。」
「わかってるんだね。ってことはさ、オレがいま言いたいこと、わかる?」
「わかんない。」
さっぱり、と言って首をすくめる理寿を見ながら、オレはため息をついた。
「あのさ、さっきからずぅっと、食べ歩いているわけなんだけど、此の期に及んでまだ、チーズハットグを食べようというのか?」
オレは、さっき理寿が指をさした方向にあるチーズハットグの屋台の方に視線をやりながら、聞いてみた。
「もう、入らない?」
理寿が唇に人差し指を当てて、首を傾げた。
「いや、そういうわけじゃないけど………食べ過ぎると太るよ?」
オレが言うと、
「大丈夫!九十九くんはやせすぎだから、ちょっとくらい太った方がいいんだよっ。」
自信たっぷりに理寿は言い切った。
「いや、オレが心配してるのは、アイドル活動をしている理寿のことなんだけど。」
「僕は毎日ダンスのレッスンをしているから大丈夫だよっ!」
早くも理寿は屋台の列に並び、
「チーズ二倍マシで!」
と注文している。
いやいやいや。
おいおいおい。
ちょっと待ってくれ理寿。
オレはまだ一言も食べるなんて言ってない………
「九十九くん、食べないの?」
理寿は首を傾げた。
オレの心の中を、すっかり読んだみたいに。
「いや、食べるよ、食べるけど、さ。」
「じゃ、はい。」
理寿の顔のおかげか、超特急で仕上げられたチーズハットグがオレの手に渡る。
「ん〜、おいしいねっ。」
幸せそうな顔をする理寿。
そんな理寿を見て、周りの女の子たちが、なんだか騒がしくなってきた。
そっか、理寿のアイドルグループは、“シャイニングレイン”だ。
もうすっかり日本中で有名なグループ。
加えて。
今の理寿は、一切自分を隠していない。
オレを忙しさから解放するため(?)に、突然外に飛び出したので、サングラスもマスクもしていない。
「あのっ。」
一人の女の子が、ほおをサクラ色に染めて理寿に話しかけた。
「狐狸川くんですか?」
理寿は芸名を使っていない。
昔一度、
『個人情報の流出とか大丈夫なのか?』
と聞いたことがある。
のだが。
『何言ってるの!絶対大丈夫だよっ。これでも陰陽師だからねっ。」
と、可愛く言い切られて、何も言えなくなってしまった。
「え〜、狐狸川くんって、だれっ?」
と、理寿は可愛く首をかしげるも、それがいけなかった。
「ほら、その姿とか、それに、喋り方、まさに狐狸川くんじゃん!」
その女子は不躾に理寿を指差した。
あ〜あ。
理寿の喋り方は特徴的だから、それでバレても仕方ないかもとすら思っている。
「違うよっ。似てるって言われてるけど、だけど違うよっ。」
必死に弁解してるけど、甘いスマイルは崩さない。
「もう、人違いって困るなっ。」
そう言って会話をぶった切ると、オレの腕を掴んで屋内へと引っ張り込んだ。
「理寿!せめて帽子くらいは被ってきてよ!」
オレがそう言うと、理寿はすまなそうな顔をした。
「九十九くんが珍しくオフだって言うから、テンション上がっちゃって、自分がアイドルだってこと忘れちゃってたんだよね、ごめんっ。」
両手を合わせてペコンと頭を下げる理寿を見ていたら、それ以上怒れなくなって、
「そんじゃ、食べよう、早く。んで、後で雑貨屋さんで帽子買おう。」
オレがそう提案すると、理寿はその綺麗な目を輝かせて頷いた。
「それ、女子の前ではするなよ。」
オレが忠告すると、理寿はぽかんとした顔をした。
「なんで?」
「なんでって………さっきみたいなことになるから、だよ。」
「ふうん?」
理寿はまだ納得できていないみたいだったが、チーズハットグを頬張った。
もう、いっか。
オレもそう思い、チーズハットグを大口を開けて食べる。
チーズがビヨーンと伸びて、ふわふわとした上の生地?って言うの?の上に四角い塊のチーズも乗っている。
もきゅもきゅ
もきゅもきゅ
しばしオレらは夢中でチーズハットグを食べていた。
「美味しかったっ!」
理寿はそう言ってフワンと微笑んだ。
「な。………そう言えば理寿。」
「何っ?」
理寿は財布の中のお金を確かめながら答えた。
「あっちに、クレープ屋あるんだけどぉ。」
「九十九くん、まだ入るっ?」
「もちろん。」
「じゃ、買うか。」
とんとん拍子に話が進む。
「あ、ちょっと待て、理寿。」
オレはぐんぐんクレープ屋に入っていこうとする理寿を止めた。
「何?九十九くんっ。」
理寿はぽかんとした顔で振り返る。
オレは無言で手招きした。
「帽子、買わなきゃ。」
「あ、確かにねっ。後、伊達眼鏡もねっ。」
近くにあった雑貨屋に入ると、理寿は早速二つのキャップを見つけた。
「何これ、かわいいっ。」
クマ耳がついたキャップで、黒と白がある。
「僕、どっちがいいかなぁ。」
そう言いながら色んな角度からキャップを見つめる理寿を見ながら、オレは黒い方を指差した。
「理寿は色が白いから、黒の方が映えるんじゃない?」
「そっかぁ。」
そう言うと、理寿は両方をとって、近くにあった黒くて分厚い丸いフレームの伊達眼鏡と共にレジに向かった。
………嫌な予感がする。
「すいませーん、これくださいっ。」
店員さんはニコニコ笑う理寿を二度見して、それでもなんとかこらえて商品をレジに通してくれた。
「あ、袋入れなくていいです。後、タグとってください。」
「はい。二点で1,620円です。」
税込でそれってことは、元の値段を計算すると………
消費税は10パーセントだから……
2で割って810円で、えーっと、737円?安いんだか、高いんだか………
店を出ると、理寿は白い方をオレに渡してきた。
「はいっ。」
「そう来ると思ったよ。え〜、オレもかぶんの?これ?」
オレがこわごわ聞くと、理寿は微笑んで頷いた。
「うんっ。」
まぁ、そう来るよなぁ。
そうなるよなぁ。
「せっかく今日オフなんでしょ、あそぼ、あそぼ。」
理寿にしつこく勧められて、仕方なく被る。
「うん、似合うっ。」
自分のことのように誇らしげにしている理寿。
「九十九くんさぁ、顔悪くないんだし、うちの事務所のモデルやろっ。」
「いや、百狐さんが心配する………って、そっか!」
オレはポンと手を打った。
理寿がビクッと震える。
「それ、悪くないかもな!」
「え、ちょっと待って、なになに?どうしたの、九十九くんっ。」
オレの周りをうろちょろする理寿に、オレは頼んだ。
「ちょっと今から、外でないか?」
「え、なんで?」
「スカウトされるため。」
「えぇっ?」
理寿は瞳を丸くした。
「オレほら、基本、友達と遊び行くっつって陰陽師の活動行ってるからさ、芸能活動だって言った方が楽じゃないかって思って。」
「だったら、やってるって嘘つけばいいじゃん。」
理寿がもっともなことを言う。
「百狐さんたちはすごく親バカだから、九十九が芸能活動やってるって言った日には、九十九のことを必死で調べ始めると思う。事務所とか、なんとか。そんな時、嘘がバレたら、困る。」
オレがそう返すと、理寿は必死の形相でオレにしがみついた。
「やめて、やめてっ。」
理寿に全力で止められる。
「そんなことしたら、二人とも、自由に外出できなくなるじゃんっ。遊びになんて、一年に一度行けたら十分みたいになっちゃうよっ!?」
「それは困るっ!」
オレも叫ぶ。
確かに、遊びに行けないのはきつい。
「でも、さっきは理寿も勧めてきたじゃん。」
「あれは冗談だよっ。九十九くんは、入ろう入ろうって言うと絶対入ってくれないタイプだって、僕知ってるもんねっ。」
オレのことをしっかりよくわかっている。
「そういうことか………なら、どうやって百狐さんに伝えればいいんだろ………」
「琵琶会長には相談したんでしょっ?」
「まぁな。でも、多分考えてないだろ、面倒だろうし。」
「ん〜、そこまで言うならさっ、任務の時は僕が九十九くん迎えに行こっか?」
「え?いいのか?」
「全然いいよ〜、ちょっと待ってね、会長に連絡取るから。」
思い立ったら即行動がモットーの理寿。
あっという間に琵琶にかけ始めた。
「あ、もしもしっ。会長ですかっ?理寿ですっ。あの、九十九くんの件なんですけどぉ、僕ら、二人で任務受けたらダメですかっ?」
素早く要件を言い切ると、理寿はしばし黙った。
きっと、琵琶から話を聞いている最中なのだろう。
「はい、はい。そうです、僕が迎えに行ったら、九十九くんのおうちのアヤカシさんたちも安心するんじゃないかって思ってっ。」
目をまん丸に見開いて力説する理寿。
しばらく話を聞いていたと思うと、
「はい、は〜い、わかりました、ありがとうございますっ。」
と言って、見えないのにお辞儀をして、電話を切った。
最後の理寿が言っていた内容から大体は予想がついていたけど、一応、聞いてみる。
「どうだった?」
「ふふ〜ん。」
少し自慢げにすると、スマホを持ったまま両手で大きな丸を作る。
「ほんとかっ?」
「うんっ!いいってさっ。」
「よかった………これで、肩の荷が一つ降りた……」
オレがそう言ってしゃがみこむと、理寿はオレと同じ目線に立って、手を差し伸べた。
「さ、早くクレープ食べに行こ。」
「あぁ!」
オレはそう答えて笑みを作ると、理寿の手を取って立ち上がった。
誰かに尾行されているとも知らずに。
読んでくださってありがとうございます!!
投稿頻度が低くて申し訳ありません、本当に。
九十九くん、誰かに尾行されてるっぽいですね。
大丈夫なのかなぁ〜?
それで本当に、最強なのかなぁ〜?
って、書きながら煽ってます。
ともかく!
頑張って、今週中にはもう1話出します。
楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは、次の話でお会いしましょう!!




