プロローグ 〜少年は顔も知らない[九十九《つくも》様]を探す〜
「おい、そっちへ行ったぞ!!」
「追いつけねぇよ!九十九様を呼んでこい!」
「はぁ?どこにいんだよ!」
目の前で行われている会話が、なんだか遠くに聞こえる。
奇妙な形のアヤカシがうごめき、それを必死に祓おうとしているたくさんの人々。
みんなは、[九十九様]を探している。
[九十九様]ねぇ。
どんな人なんだろう。
その人は、このたくさんのアヤカシを祓えるのだろうか。
パンッと弾けるような音がして、人が一人吹っ飛んできた。
その人はこっちを見て、ハッとして、
「おい、坊主、ここは遊び場じゃねぇんだ、戦場なんだよ。さっさと帰れ!」
と叫んだ。
乱暴な言葉だったけど、僕を心配して言ってくれてるんだと思う。
僕はおとなしく頷いて、踵を返した。
騒がしいところは嫌いだし、僕は両親みたいに死にたくないから。
ごめんなさい、母さん、父さん。
僕はアヤカシが見えても、祓えないんです。
そんな能無しなんです。
───でも。
その、九十九様、って人と出会えば。
出会って、弟子にしてもらえたら。
ひょっとしたら、僕は祓えるようになるんじゃないだろうか。
♦︎
「やばい、遅刻っ!!」
そう叫んで、ぼくはスクールバックを手につかんで外に飛び出そうとした。
「ちょっと、待ちなさいよ。朝ごはんは?」
現代に似つかわしくない白の着物を着た美女が、そう聞いてくる。
「食べてる暇ないのわかって!」
ぼくがその人の方を見て言うと、
「もうっ!」
その人はそう叫んで、ぼくに向かって食パンを投げた。
「んぐっ!」
口でキャッチすると、喉に詰まりかけ、慌てて取り出す。
「何すんの!」
「食べてかないと、またお腹なるわよ?」
「ムゥ〜!」
食パンくわえて登校、なんて少女漫画みたいなことやりたくないけど、静かな教室でお腹がなるのも避けたい。
「行ってきます!」
ぼくは仕方なく、食パンをくわえたまま外に出た。
走っていると、ポツンポツンと同じ学校の制服が見えてくる。
よかった、間に合うかも!
そう思いながら走っていると、後ろから声をかけられた。
「お〜い。」
誰だ?
そう思って振り向くと、同じ制服ながら、圧倒的に高校生じゃない男が立っていた。
制服の前をだらしなく開けて、目線もぼくよりずっと高く、明らかに怖い人だ。
「伊知郎!」
ぼくは叫んだ。
そう、この絶対的に高校生に見えない男は、ぼくのともだち、矢田伊知郎だ。
なんと彼は、高校生なのである。
「ヨォ。食パンくわえて登校とか、少女漫画かよ。」
言われると思った。だって、走りながらなんて食べてられないし。
「また身長伸びたんじゃないの?」
ぼくは話題をそらしながら、食パンを食べる。
「まぁな。」
「今どれくらい?」
「180…もしかしたら、8あるかも。」
「ゲホッ。マジで言ってるの?」
驚きすぎて、食パンが喉につまりかける。
チビなぼくからしたら、とても羨ましい話だ。
ぼくの身長は…まぁ、伊知郎から3じゅ………20センチ引いたくらいだ。
「どうやったらそんなに伸びんの?」
「寝てるから。」
寝てて伸びるなら、ぼくはとっくに試して高身長になってる!
と言うか、ぼくが寝てないわけじゃないんだぞ!
すごく寝てるんだ!
なのに伸びないんだが、これはだれかの嫌がらせなのだろうか。
「そんなことより、今日身体測定だけど、体操服持ってきたか?」
伊知郎に聞かれて、ぼくはうなだれた。
「忘れた…」
すっかり忘れてた。
寝坊したってだけで、もう全てが頭から吹き飛んでしまうんだ。
昨日持ってこようと思ったものも、何もかも。
「だろうな。あの真っ赤な袋が見当たらないもんな。」
「そう言う伊知郎は?」
「忘れた。」
だろうな。
だってぼくらの学校のあの真っ赤な袋が見当たらないもんな。
「伸びてるといいなぁ、伸びてるかなぁ。」
伊知郎はそう言った。
それを言うのは、ぼくだ!
お前は明らかに伸びてる!
誤差程度にしか毎回伸びないぼくに向かって、なんてことを言うんだ…
ぼくは怒って、少し早歩きに切り替えた。
「あ、ちょっと待ってくれよ、九十九!」
こんにちは。
小説を書き始めて間もないので拙い文章ですが、読んでくださってありがとうございます。
新人でわからないこともいっぱいありますが、頑張るので、これからよろしくお願いします。