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休日の朝


 眩し、と思って目を覚ます。カーテンの隙間からこぼれる光が顔に落ちていたみたいだ。身体をうんと伸ばして手足を四方に広げる。深呼吸をするとちょっぴし湿気た人んちの布団の匂いがした。


 すぐ起きようか一瞬迷ったけど、寝過ぎた日特有の気怠い感じが心地良くて私は布団を自分の身体に巻き込んで繭のようになった。そして光から顔を背ける。再び目を閉じ布団の感触を全身で楽しんだ。


 そのまんまでいると、ゆっくりと意識が落ちていきそうになる。いやいや人んちだからと思い枕元に置いてたスマホを手に取った。画面でも見て眠気を覚そうとニュースを確認する。文字を追っていると次第に頭がシャッキリしてくる。


 扉の外からは何も音は聞こえない。まだ睦月は眠っているのだろうか。


 トイレに行こうと思って扉を開けると、リビングのソファでゾンビのような睦月が三角座りをしてるのを見つけた。わーお。


 格好も昨日見たパジャマのまんまだ。


「むむむむっちゃん、おはよ」


 じっとりと湿度が高めの視線を向けてくれるので、出来るだけ能天気に見えるようへラリと笑顔を返す。


「ともちゃん、おはよ。ぐっすり眠れたようで何よりだよ」


 目は充血してるし、顔は血の気が無い。顔と言葉の不一致パねぇ。思わず私の顔は半笑いになる。


「睦月クンは全然眠れていないようですネ!」

「あんなタイミングで放置プレイとか、ともちゃん鬼だ!寝よう寝ようと思ったけど全然寝れなかったよ!」


 完全に目が座って恨み調子の睦月に、あはははははと乾いた笑いで誤魔化して一歩後退る。


「そりゃともちゃんに全く男として意識されていなかったのは分かってたさ。今までずーっと俺に対してお友達な距離だったもんね。でも告白に対してスルーとかどうなの。俺の募り募った片思いはどこへ向かえばいいんだよ」


「あー…スルーしたのはごめん。突然すぎて頭が考えることを拒否してたの。あんだけ飲んだ後に重要な事を決めるのは無理だよ」

「でも言質は取ってあるけどね。3ヶ月は試しに付き合ってくれるって言ったもんね」


 睦月は駄々を捏ねるように必死で言い募る。


「でもそれって前提条件から間違っていたけど…」



 いつもの穏やかな調子はどこへ行った。アップテンポで温度の高い睦月からの言葉が弾丸みたいに耳に飛び込んできて処理が追いつかない。



「そもそもこんな提案何とも思ってない相手にするわけないだろッ!!そこに考えが至らなかったともちゃんが甘いの!!」


 睦月の剣幕に思わず背中がピンと反り返る。こんなにストレートに睦月から感情をぶつけられたのは初めてかもしれない。睦月の顔は険しい。


「睦月と付き合うってことをちゃんと考えてみるから、やっぱり3か月一緒に暮らすのは無しにしない?」

 

「嫌だ。俺がどんな気持ちで今までともちゃんのこと見てたか……。これでともちゃんがそのまま帰っちゃったら、もう俺とは今まで通り会ってはくれないだろ」


「まー、そうなるだろうね。気まずいだろうし、あんまり気を持たせるのも睦月に対して失礼だと思うし」



 声を荒げる睦月の調子を崩すように目を合わせて、ゆっくりと間延びするように話す。相手のペースに持ち込まれてなるものか。


 もう私も睦月もいい年した大人だ。それなりに恋愛も経験してきたし、かわし方だって覚えてきた。


 喧嘩した次の日でも「あーそーぼ」って言ったらケロっと忘れてまた仲良く遊べるような、そんな歳では無くなったのだ。


 その上、社会人になってからのフリーな時間は貴重だ。その分気まずいと思えばあっという間に疎遠になっていく。学生時代からの友人関係もどれだけ精算されていったことだろう。


 私と睦月もそうやって関係が薄くなっていくのだろうか。


 ぐっと自分を抱えるように座る睦月の身体は細身ながら肩幅なんかはしっかりしている。伏せられた睫毛が長い。悔しげに噛み締められた唇が痛そうだ。


「そんで連絡とらないうちに、ともちゃんの事大して知らない男がタイミング良くともちゃんに恋して、ともちゃんは何となく受け入れてまた付き合い始めるんだ。そんでそろそろ時期だなってことでいろいろ妥協して結婚してその男の子どもを産むんだろうな。子どもが産まれたら子育てにかかりっきりになって何だかんだその男にも情が湧いちゃったりして家族になってくんだ。そんなことになるなら、俺にだってチャンスをくれてもいいじゃないかっ…!!」


「っ…それは考えすぎじゃ…」


 睦月は見たことが無いほど切羽詰まった顔でこっちを見ている。


 そんな簡単に結婚を決めることは無いだろうけど、30歳手前になった時に自分が焦らないとは言い切れない。睦月が言うことにも一理あるかも……と少し納得しかけたが、落ち着け自分!あくまで彼の妄想だ。

 

 黙ったまま睦月を見ていると、顔を歪めたかと思うと膝小僧にぐっと顔を埋めた。


 その姿は急に小さくしぼんで見えて、悪いことをした気になってくる。


「ねぇ、3ヶ月は試させてよ。それでダメだったら諦めるから…」


 少しの沈黙を破って震える声で言った睦月は、膝の間からこっちをすがるような目で見ている。


 ああ…。私はこの睦月の顔をよく知ってる。


 睦月と少しずつ距離を取り始めた小学生の頃よくこの顔を見ていた。その頃の私は年下の子と遊ぶことに少々の面倒臭さとを感じ、同じクラスに出来た仲の良い女の子の友達とよく遊ぶようになっていったのだ。


 睦月の誘いを断る回数が増えても、彼は好意をそっと差し出すように諦めず私の所にやって来た。先約があるからと苦い気持ちで断ると、落胆と失望の入り混じった顔をして「じゃあまた暇な時に遊ぼうね」と力なく肩を落として背を向け帰っていく。そして他の友達と遊んでいる時、睦月自身も誰かと遊びながらふとした瞬間に私を見ているのだ。


 彼からの好意を感じていた癖に、あえて無視するような事をした記憶にはべったりとした罪悪感がこびりついている。若気の至りとも言えるかもしれないが、ある種の後ろめたさはずっと残っている。今までそれに対して謝るようなこともしていない。謝罪のタイミングを完全に逃してしまったのだ。


 この事は睦月の誘いを受ける度に思い出す。そしてあの頃とは違い、誘いを断らず二人で会うことが贖罪にならないかと、弱くてズルい私はどこかで思っている。


 白黒さっさと付けたがる私が、睦月を無下に扱えないのはこういった理由があるからだ。


「分かった。とりあえず3ヶ月は試してみよう。でもそこで私が無理だと思ったら本当に諦めて」

「分かった」

「よし。じゃあとりあえずトイレ行ってくる!」



 お忘れかもしれないが、私はずーっと我慢していた。

 

ストックが切れたので次回の予定は未定です^ ^

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