第8話
なんか久々にこの作品の続きがふと思い浮かんだので、続きを書いてみました。
構想自体はまだ残っているので今後も不定期ながら行進を進めていこうかなと。
時季はめぐり4月。
なんだかんだあって留年することとなった俺達は、二度目の高校二年生のスタート地点に再び立つこととなった。
今日は始業式。そして、俺達が通う私立上城学園は、同日の午後に入学式も執り行う日程となっているため、上級生は全員がLHR後は帰宅の流れとなる。
「俺達は……ん? 全員一緒のクラスだな……」
「あぁ。四人いるし、誰か一人でも別のクラスになりそうだとは思ったけどな……」
「そうだね」
「でも、四人一緒なら、少なくとも気楽だとは思うわ」
「あ、それは確かに……何せ、コミュニティとかもう、形成されちまってるだろうからなぁ……」
去年付き合いのあった友達たちはみんな、三年生になってしまっている。
受験や就活がある関係上、時期が経つにつれてそれほど気軽に会いに行くことなどできなくなってくるだろう。
それに――九か月、帰ってきた後の空白期間も含めればおおよそ十か月のブランクは、仲の良かった友達をして、一気に疎遠になってしまっていてもおかしくはない時間でもある。
まぁ、そんな心にも無いこと思いたくもないが。
「さて……七組か……結構離れてるな」
「昇降口のおおよそ反対側だからね。今日は早めに出てきたからいいけど、平時でも去年より少し早めに出てこないと、廊下を歩いている間にも遅刻になってしまうわ」
「玄関と離れているっていうのは、大変だねぇ……」
「違いねぇ」
長らく見ていなかった二年生の廊下。
俺達にとっては、この風景を見るのはおおよそ三年ぶりとなる。
とはいえ、二年生のクラスがある廊下は、俺達もおおよそ一か月の間しか歩いたことはないから、特に感慨も感じることなく。
他愛もない話をしながら歩いていたら、すぐに到着してしまった。
教室の中に入り、中にいる生徒たちを流し見る。
やはり、全員俺達のことを奇異なものを見る目でしか見てこない。
当り前だろう。順当に進級してきた連中にとっては、俺達はむしろイレギュラーなのだから。
俺達はそんな視線を気にすることなく、自分たちに割り当てられた席へと向かって歩いて行った。
「あ……お、おはよう……ございます……」
「あぁ、おはようございます。今年一年、よろしくお願いします」
「はいぃ……」
座席は、六列に分かれて配置されていた。
そして、俺の席は、中央廊下寄りの席で、最後尾。
黒板に向かって左側、窓に近い側の席には、俺から近い順に楓、秀樹が座っている。
一方の反対側。右隣(後方ドアに一番近い席)には、見知らぬ女子を一人挟んで、その反対側に奏が座っていた。
俺に声をかけてきたのは、その俺と奏の間にいる、おっとりとした女子だった。
「あの、ニュースでやってた人達、ですよね。行方不明になっていたって……」
「あぁ、まぁ、な……あまり、その件については触れないでいてもらえると助かる」
「わ、わかりました……」
女子にそう質問を投げかけられて、そういえば報道機関へは働きかけたものの、やはり最低限の報道はされたんだったっけ、と思い出して、これはしばらくの間話のタネにされそうだ、とこれから先のことを思い、少し気が滅入った。
そして隣の女子と軽く自己紹介を交わしているうちにチャイムが鳴って、生徒たちは自分たちの席へと戻っていった。
担任の先生は、それからしばらくして教室に入ってきた。
って、あれ? もしかしなくても、この先生は沢部先生だよな。
去年、同じく二年生だった俺達のクラス担任だった先生。
てっきり進級した生徒達に合わせて、本年度の三年の担任になっていると思ったんだけど、まさかの展開が来たな……。
「よし。全員揃ってますね。私は今年一年、あなたたちのクラス担任をすることになった沢部理沙です。よろしくお願いします。それじゃ、早速だけどこの後すぐ、始業式があるから体育館に行きましょう」
先生はそう言うと、すぐさま再び廊下へと出ていった。
ショートホームルームがおざなりなのは、始業式の後すぐにロングがあるからだろう。
俺達もそれに続き、廊下に出る。もちろん、クラスメイト達も全員一緒である。
そして、先生案内のもと体育館へと向かう。
俺達の学年は、教室が二階にある。一階は職員室や保健室がある他三年生の教室などがあり、三階には一年生の教室、といった感じだ。
そして、一階の外通路側出口から出ると、そのすぐ正面が体育館。その手前で直角に折れると、その先は格技場に通じている。
始業式は体育館で行われるから、このまま直進だな。
そして、全員が名前順で整列し、並び終わったことを先生たちが確認すると、始業式が始まった。
とはいえ、内容はとても分かり切ったもの……長い話を聞いているだけであった。
始業式が終わってクラスメイトとともに二年七組の教室に戻ると、そのまま休憩時間に入る。
「いやぁ、やっと終わったなぁ、始業式」
「やっぱりああいうの苦手。じっとしてるのって、辛くない?」
「わかる。いつまで話続くんだよ、とか思っちゃうよな?」
「私、なんか途中から意識なかったんだけど……」
それはさすがにいきすぎだろうとは、俺もさすがに言えなかった。
何回か船を漕いだような気がしたし、同じ穴の狢という奴だ。
それから他愛もない話をして時間を潰していると、それほど時間を置かずにチャイムが鳴り、二時限目のLHRが始まる。
二時限目は、始業式前に対面した沢部先生のほかにもう一人、女性の先生が来ていた。
この学校では、1クラスに付き担任と副担任、合計で二名の担当が付くことになっている。
沢部先生が担任だと言っていたから、もう一人の女性の先生は、多分副担任だろう。
どこか、頼りなさげな雰囲気を漂わせているところからすると、まだ教師歴が短いか、新卒なのかもしれない。
「それじゃあ、改めて自己紹介させてもらいますね。私は沢辺理沙といいます。始業式前にも言った通り、今日からの一年間、あなた達のクラス担任をさせていただくことになりました。よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
沢部先生の最後の一言に対し、クラス全体からの返答。
それが終わったところで、沢部先生は次に副担任らしき女性の紹介に移った。
「では、次に副担任の先生を紹介します。波瀬先生、よろしくお願いします」
「はい。今年からこの学校で教師として働くことになりました、波瀬美奈子と申します。担当は数学ですので、数学でわからないことがありましたらお気軽に声を掛けてください」
数学担当か。
去年いた先生はいなくなっちゃったのかな。
あの先生の授業も、結構教え上手で面白みがあって好きだったんだけど。
この、波瀬先生はどんな授業になるんだろうか。
「それでは、何か私達に質問がある人はいますか?」
その沢部先生の問いかけに、クラスの何人かが手を上げた。
「えっと…………では、清水さん。どうぞ」
「はい。波瀬先生は、部活動は何を担当するんでしょうか」
「奏楽部です。ブランクはありますが、学生時代も楽器をやっていたので」
「では次。原田さん」
「好きなものは何ですか?」
「好きなものですか? そうですね……ベースでしょうか。休みの日などは、よく弾いたりするんですよ」
意外だな……。
見た目からして結構吹奏楽っぽいイメージだと思ったんだけど、まさかのベーシストだったとは。
その後も、生徒から波瀬先生への質問攻め(たまに沢部先生への質問もあったりした)が続くかと思ったけど、残念なことに時間は有限。
そうやすやすとテンプレートのような事態には発展しないのが現実で、五、六個の質問に答えた後は時間の都合ということで、強制的に次の話へと進められてしまった。
「では、次は皆さんから自己紹介をしてもらいましょうかね。私も、昨年度は一年上の子達の担当で、君たちのことは部活動関連で一部の子達しかわからないし、波瀬先生はそれ以前に君たちが最初の教え子だからね」
そして、さらりと落とされた重大発言。
波瀬先生、やはり新卒の先生だったみたいだ。
クラスメイト達が『えっ!?』という空気に包まれる中、粛々と自己紹介の順番が決められていく。
奏も含む、四隅の席に座っていた生徒たちが起立し、その場でじゃんけんをする。
勝ったのは、窓際の一番前の席の生徒だった。
すると今度は、廊下側の一番前の生徒と奏がじゃんけんをすることに。
ここでも、奏はじゃんけんで負けてしまう。
結果、自己紹介の順番は窓際の生徒から開始して、廊下側の生徒で折り返す、という順番でスタートすることになった。
ちなみに自己紹介の内容は、少なくとも名前と趣味、そしてクラスメイトへの一言の三つは話すように、との沢部先生のお達しである。
クラスメイトへの一言か……。無難に、よろしくお願いします、でいいのかね。
俺達四人は最後の方だし、ゆっくり考えればいいだろう。
趣味だよな、問題は。
趣味――剣術の鍛錬。は、ちょっと違うような気がする。
いや、これでもいいんだろうけど、なんか剣道マニアか何かと誤解を招きそうだし、別のにしておいた方がいいかもしれない。
となると――魔法の鍛錬?
いやいや、これはそもそも論外だし。これ言った時点で、もう正気を疑われるよな?
というか俺、あっちの世界に行く前の趣味って何だったっけ?
となると、あれ、しかないよな。
古い機種のゲームだけど、意外と面白いゲームにドはまりしてんだよなぁ。
あっちに行く前も、戻ってきて以降も、あれだけはやめることができない。
うん。向こうに行ったことで、そっち方面に意識が行きかけたけど、普通にこっちの世界で継続できている趣味もある。
別に悩むことでもなかったな。
しばらく他者の自己紹介を聞く。
「今井奏です。趣味は読書とです。みんな、私や陸、秀樹に楓。私達に思うところはそれぞれあると思いますが、今日から一年間、どうぞよろしくお願いします」
奏に順番が回ってきて、彼女らしいといえばらしい、当たり障りのない自己紹介が終わると、今度は始業式前に声を掛けてきた、おっとりさんの番だ。
「桐生なぎさと言います。趣味はバイオリンで、音楽部に所属してます。よろしくお願いします」
ふぅん、桐生さんというのか。
雰囲気に違わず、クラシカルな楽器を嗜んでいる様子。
会う機会があれば、妹と気が合いそうな気はする。
「ありがとう。じゃ、次は島村君ね。よろしく」
「はい」
っと、いよいよ俺の番が来たか。
よっこいせ、と。
椅子を引いて立ち上がる。
軽くクラス全体を見渡すと、それだけで椅子に座りながら身を捩ったり、体の向きを変えたりして俺に視線を向けてきているのが見て取れた。
――思ったより、注目をされているな。
始業式前にも、そして始業式中にもチラチラと視線が俺達に送られてきているのには気づいていたが、やはり気になるものは気になるよな。
おおよそ十か月近くもの間、俺達は行方知れずになっていて、警察もその足取りを掴めなかった。
それが、ひょっこり帰ってきたのだから、気にならない方がおかしいだろう。
しかも、どういうわけかテレビでもそれほど大きく取り沙汰されなかったという、いわくつき。
とはいえ、テレビ云々に関しては、俺の家が裏から手を回して、マスコミ関係者の取材を控えさせたというのが大きいんだけど。
あとは、うん。やっぱり、楓や奏たちの魔法で、思考誘導をしたのも大きいかもしれない。
まぁ、今はそれは置いておいて。
俺の後にもあと三人、未だ控えているし。
この後にもやるべきことは控えているだろうから、ちゃっちゃと済ませてしまいますかね。
「島村陸です。趣味はゲーム、特にローグライクなんかは好きです。えっと……行方不明になっていた時のことについては、ちょっとコメントは差し控えたいので、あまり聞かないようにしてもらえると助かります」
「ありがとう、島村君。まぁ、君が姿をくらませてた時のことは私も含めて、気にならない人の方が少ないと思うけど、そういうことならあまり踏み入ったことは聞かないようにするわね。みんなも、余り彼らを困らせる質問はしないように。いいわね? じゃ、次」
送られてくる視線に、否定的なものはそれほどない。
どうやら、うまく乗り切ったみたいだな。
あとは、秀樹と楓が終われば、自己紹介もほとんど終わる。
一仕事終えた、と溜息をついて、俺は隣に座る秀樹に、次はお前だ、頑張れよと視線でエールを送った。