09
外に出ると茹だるような暑さだった。さすがの植物たちも日光に焼かれてひと足早く葉を茶色に変化させるのではと思うほど強い日差しが照りつけている。湿気を多く含んだ風はただただ不快指数を上げるだけだ。そうだった。今は夏だったと自分まで季節を忘れていたことに驚く。やはり注連縄の結界が張られた寝台の周辺が特別だったのだ。
友仁は木製の階段を下りて、石板が敷き詰められた参道を進んでいく。その左右には大人が腕を広げても到底届かない太い杉の木と水路が並列していた。苔が生えた根元は隣同士で融合しているものもあり義一はしげしげと観察する。凰和は義一の腕を抱えたまま忙しなくきょろきょろとあたりを見回して、今までいた社を振り返ると動かなくなった。
その瞳はどこか遠くを見つめ震えている。まだあどけなさが残る横顔は、懐かしさと寂しさが入り交じる郷愁を帯びて見えた。
義一もまた自分が流れ着いた社を見上げる。短い階段を上った先には賽銭箱と鈴が設けられ、その鈴を鳴らし訪れを告げる参拝者はまさに奥の寝台にいた凰和に向かって手を合わせる形となる。
何者なのだろう。この娘は。義一の視線に気づいた凰和は誤魔化すように笑って腕を引いた。
先を行く友仁は立ち止まって義一と凰和を待っていた。少年の後ろには鳥居の形をした立派な門が参道を跨いでそびえ立っていた。
「鳥居大門だ」
ぶっきらぼうに義一に紹介して、友仁は「足元気をつけてください」と凰和をていねいに門の中へ案内する。その門は二階に上がれるらしく、柱の中へ入ると目の前にほぼ垂直の階段が現れた。友仁にならって凰和は四つん這いになりながら上っていく。義一もあとにつづこうと顔を上げて、うつむいた。