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「なあ、この羽、こうしたらどうなるんだ?」
いたずらめいた声を耳に吹き込めながら凰和をそっと抱き締めた。とたん義一の頬をさわやかな風がなでていく。視界いっぱいに青い翼が広がり、水中をたゆたうかのような優雅な尾羽に冠羽までが美しい白髪から左右に垂れ下がっていた。
義一はくすくすと笑ってまるで自分の狐耳のような冠羽に触れた。その際かすめた凰和の耳は驚くほど熱い。少女はますます縮こまってぎゅうと握り締めた義一のTシャツに顔を埋めた。
「やっぱりこれ霊力が具現化したものだな。凰和の感情に呼応してる。うれしいとあふれるのか?」
「う、うれしいはずがありません! 思い出作りなんて困るんです。だってこれ以上あなたといる楽しさを知ってしまったら私……生きたいと、思ってしまう……!」
胸にじんわりと温かいものが染みる感触がして、義一はゆったりと呼びかけながら凰和の頬を包み掬い上げた。音もなく次々とこぼれる流星は美しい。鼻先に留まったひと雫のそれを気がつけば唇で吸い、己の内に取り込んでいた。
「いっしょに生きよう。そんで、時がきたらともに死のう」
まるく見開かれた目にかかる髪をやさしく払いのけ義一は微笑んだ。
「お前ひとりを暗い水の底にいかせたりはしない。お前の寿命がきたら俺もいくから」
「や、です……。私そんなこと、できません……」
「戦争の代償をなんで凰和ひとりが背負う必要がある? お前が背負うなら俺も背負うべきだ。世界中の人間だってもう少しくらい瘴気に悩まされてもいいだろ」
くすぐるように親指で頬をあやす義一に手を添えて凰和は顔をすり寄せる。ゆっくりと瞬いたまぶたに押し出された雫がはらり、義一の手に染み込んでせつな熱を放った。




