表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊獣ノ巫女  作者: 紺野真夜中
第3章 獣憑
62/65

62

「なあ、この羽、こうしたらどうなるんだ?」

 いたずらめいた声を耳に吹き込めながら凰和をそっと抱き締めた。とたん義一の頬をさわやかな風がなでていく。視界いっぱいに青い翼が広がり、水中をたゆたうかのような優雅な尾羽に冠羽かんうまでが美しい白髪から左右に垂れ下がっていた。

 義一はくすくすと笑ってまるで自分の狐耳のような冠羽に触れた。その際かすめた凰和の耳は驚くほど熱い。少女はますます縮こまってぎゅうと握り締めた義一のTシャツに顔を埋めた。

「やっぱりこれ霊力が具現化したものだな。凰和の感情に呼応してる。うれしいとあふれるのか?」

「う、うれしいはずがありません! 思い出作りなんて困るんです。だってこれ以上あなたといる楽しさを知ってしまったら私……生きたいと、思ってしまう……!」

 胸にじんわりと温かいものが染みる感触がして、義一はゆったりと呼びかけながら凰和の頬を包み掬い上げた。音もなく次々とこぼれる流星は美しい。鼻先に留まったひと雫のそれを気がつけば唇で吸い、己の内に取り込んでいた。

「いっしょに生きよう。そんで、時がきたらともに死のう」

 まるく見開かれた目にかかる髪をやさしく払いのけ義一は微笑んだ。

「お前ひとりを暗い水の底にいかせたりはしない。お前の寿命がきたら俺もいくから」

「や、です……。私そんなこと、できません……」

「戦争の代償をなんで凰和ひとりが背負う必要がある? お前が背負うなら俺も背負うべきだ。世界中の人間だってもう少しくらい瘴気に悩まされてもいいだろ」

 くすぐるように親指で頬をあやす義一に手を添えて凰和は顔をすり寄せる。ゆっくりと瞬いたまぶたに押し出された雫がはらり、義一の手に染み込んでせつな熱を放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ