06
その通りです、とくすくす笑って凰和は寝台から立ち上がり、少年に歩み寄った。
「そしてこの子は代々私を守ってくれている随身です。そうだよね?」
「はい! 二十六代目随身の友仁と申します。凰和様、お初お目にかかれて光栄です!」
「おたくらも初対面だったんかい」
こんがらがってきた頭を義一は乱雑に掻いた。ああ、頭から水路の生臭いにおいがする。少年・友仁は乱反射する湖面のように喜びを湛えた目で、凰和に頭をなでられてもじもじと笑っている。数分前までハエを見る目で人を叩き潰そうとしていた子どもと同一人物とは信じがたい。
「つまり、おじょう――いや、彼女は霊獣・凰和に仕える巫女さんってことか?」
つい気安く呼びかけた義一ににらみで訂正させた友仁は、凰和の顔をうかがった。凰和もまた友仁を見つめ返してふたりはしばし無言で会話する。義一が途方に暮れかけた頃「そのようなものです」と返答があった。
妙な間だ。それに凰和の言い方も引っかかる。だが義一は肩をすくめて思考を放棄した。
「ま、なんでもいいわ。俺には関係ない。凰和サマには世話になった。感謝してるよ。じゃ」
片手を挙げてきびすを返した義一は、意識をさっさと会社に提出する報告書へと向けた。ところが「ダメだ」と友仁の鋭い声が引き止める。振り返り見た少年の手には再びほうきが握られていた。
嫌な予感。
「あんたを不法侵入で警察に突き出す!」
「だあー! なんでそうなるんだよ。俺の話聞いてた!? 不可抗力なの!」
問答無用! とほうきを突きつける友仁の後ろで凰和の顔がパッと明るくなった。もっとすごい嫌な予感だ。思わずあとずさった義一だが、藤の根っこにつまずいてよろけているうちにがっちりと腕を抱き込まれた。見ると凰和は満面の笑みを浮かべた。