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「あんたも獣憑なんだよな。凰和様もそうらしいんだ」
ぼんやり前を向いたまま話す友仁の言葉に義一は目をまるめた。だが雨を晴らした青い光の鳥を思い出し合点がいく。そして凰和に待ち構える運命も悟った。
「そうか。霊鳥の獣憑ってことなのか。凰和はどのみち、長くないんだな……」
突然友仁がひざに倒れ込んできた。その焦点の定まらない虚ろな眼差しを見て義一はハッとする。もう座っていることさえ難しいのだろう。無意識に構えていた体から力を抜いて友仁の米神あたりをぎこちなくあやす。友仁は悪夢にうなされるようにかすれ声をもらした。
「いいのかな。そんな凰和様に、生きていて欲しいって言って……ひどい言葉にならないかな……」
列車が地下三〇〇メートルのホームに到着した時、友仁は骨のない生き物のように立ち上がれる状態ではなくなっていた。それでも何度も凰和を呼び求め、ごめんなさいと謝る友仁を義一は背負ってホームに下りた。背中の服を掴む手が、置いていかないでと訴えてくる。
「置いて、いかねえよ。そのつもりならとっくに、神社に置いてきてる」
杖代わりの木刀をつく義一もまた今すぐにでもひざをついて世界の終焉までぼんやりしていたい衝動に駆られていた。自殺志願者をここまで案内する時はいつもなら薬で耐性をつけてくるが、浄化の力を持った九尾を宿していてもなお感じる重苦しい空気はいつになく増している。生け贄が待ちきれず暴れているのか、はたまた浄化の光たる凰和の出現に怒り狂っているのか。
義一はとつとつと杖を鳴らしながら線路を跨ぎ、一番線のホームに渡った。そこには銀色の車体が停車している。ふと、女性のすすり泣く声が聞こえた。義一は耳を傾けながら運転席へと向かう。そこにはドア枠にもたれて涙を流す翔がいた。




