51
「この耳としっぽはどうしてもセットなのか」
魂の相棒はこの時ばかり、こーん! と元気よく鳴いた。
義一はジョージ電力会社のゲート前で車を停めさせ荷台から降りた。窓から顔を出す大工の棟梁に礼を言うと、棟梁は義一の頭部に目を留めて表情を硬くした。
「あんた獣憑だったのか」
義一はなにも言わずもう一度軽く頭を下げてきびすを返した。ついてきた友仁に、なるべくうつむいてボーッとしてろと指示を出す。友仁は不思議そうな目を向けてきたが黙ってうなずいた。
「近くの駐車場で待ってるからな」
その声が聞こえた直後、エンジンをかける音が響いて義一は弾かれるように振り返った。すでにハンドルを切って今来た道に戻る小型トラックに、なにか言いたいはずなのに言葉が出てこない。そんな義一の代わりに隣で友仁が大きく手を振って「ありがとう」と叫んだ。
そういえばこの子どもは獣憑の俺を疎ましく思わないのか?
「おっさん、早く行こう!」
義一の手をためらいなく取って引っ張る姿に愚問だったと知る。
「うつむいてろって言っただろ」
注意する声に自然と苦笑がにじんだ。
ゲートに近づくと詰所から出てきた守衛に義一は社員証を見せた。これだけは流されていなかったことは不幸中の幸いだった。うなずいて社員証を確認した守衛は友仁に目を移した。義一はへらりと笑って「見学希望者だ」と説明する。それが自殺志願者を示す隠語だと知っているのは、譲慈に拾われた獣憑の守衛とスカウトマンのみだ。
守衛はあっさり義一と友仁を通した。義一が杖代わりに持つ木刀さえ軽く注意された程度だ。会社の秘密を共有する守衛とスカウトマンのやり取りは形式的なものに過ぎなかった。




