05
「てめえ! やっぱり凰和様を人質にして金目のもん盗りにきた賊だな。この不届き野郎があ!」
一歩踏み込み、寝台を回り込もうとした少年を「待って」と少女が止めに入った。しかし少女はひざから力が抜けるように倒れる。地面とぶつかりそうになった彼女を、とっさにほうきを投げ捨てた少年が抱き留めた。
「大丈夫ですか!?」
「びっくりした。ちょっと霊力を使い過ぎちゃったみたい。でも大丈夫だよ。ありがとう」
少女に礼を言われた少年の目がくしゃりと歪む様が義一の目に映った。義一は首裏を掻き、長く息を吐き出して少女に手を貸した。すかさず少年が割って入ろうとしてきたが、そこで休ませるだけだとあごで寝台を指すと、しぶしぶ引き下がった。
「俺の名前は義一。昨夜川に落っこちてここの用水路に流れ着いた。誓って物取りじゃない。そこのおじょうちゃんに看病してもらっただけだ」
気を取り直し、自己紹介した義一に少年はつっけんどんに口を開いた。
「この方は霊獣ノ巫女、凰和様だ。気安く呼ぶんじゃねえ」
義一の腰ほどしかない小さな体でライトブラウンの目が一丁前ににらみ上げてくる。ぴょんぴょん跳ねた茶髪と同じ、とんでもない跳ねっ返り小僧だと思いながら義一は無精ひげの生えたあごをさすった。
「霊獣って、動物の長って言われてるあれだろ。凰和は確か瑞鳥の名前だったか?」
吉兆の前触れに現れるという伝説の鳥のことを口にして義一が目を向けると、少女・凰和はただにっこりと微笑みを返した。子どものごっこ遊びだと片づけるには、確かに寝台の周りは不思議な空気が漂っていた。植物が季節を忘れて花をつけていることもそうだ。
改めて部屋を見回した義一の目が、壁に沿ってぐるりと渡された注連縄に留まった。
「もしかしてここ神社?」