49
涙を湛えた目をキッと吊り上げ、友仁は足元に落ちていた折れた枝をわし掴み叩きつけた。
「なんでだよ!」
何度も、何度も、地面に叩きつけた。
「なにが感謝だ! なにが随身だ!」
叩きつけられる度、葉のすれ合う悲鳴が激しく飛び散る。千々にちぎれ、むごく折れ曲がり、皮から白い中身が剥き出しになった。
「こんなことならっ、随身にならなければよかった! 俺はただ凰和様を助けたかっただけだ。こんなんじゃなくて、本当の意味で!」
枝がふたつに折れると友仁はひざをついて項垂れた。あたりに散乱した思いの残骸のひとつが、義一の心に引っかかった。
「凰和を本当の意味で助ける……」
次の瞬間視界にぬっと手が飛び込んきて義一は胸倉を掴まれた。
「助けられるのか! 凰和様を助けられる方法があるのかよ!」
Tシャツを引きちぎる勢いで揺さぶる友仁に義一も胸をあえがせ叫んだ。
「ま、待て。運命は変えられないかもしれない。だけど今は変えることができるはずだ!」
「それってどういう……」
言いかけた言葉を舌打ちで消して、友仁は一転して義一を突き放し身をひるがえした。
「話しててもしょうがねえ。おら、おっさん! 凰和様を追いかけるぞ!」
「それこそ待てっつうんだよ! 今俺動けねえの!」
「はああ? これだからおっさんは使えねえんだよ」
「おっさんは重傷なんですう! 労りやがれこのくそガキ」
険しい顔で戻ってきた友仁は盛大にため息をつきながら義一の腕をむんずと掴んだ。そして力任せに引っ張った。わずかに動いた拍子に友仁が叩き折った枝に乗り上げ胸に突き刺さった。義一の口から「ぎゃああ!」と年甲斐もない叫びが飛び出す。しかし友仁は障害物に気づかず力で押し進めるばかりだ。これでは山道を下りきる前に腕が引きちぎられるに違いない。




