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くすりと笑った翔の視線に絡め取られて義一の肩はびくりと震えた。「勧誘?」とつぶやく友仁からの視線も突き刺さる。凰和は瑠璃の美しい目を義一に向けながら淡々と口を開いた。
「義一さんは自殺志願者を勧誘するスカウトマンですよね」
「自殺!? なんだよそれ」
驚いて立ち上がった友仁に「ちがう」と言った義一のかすれ声は届かなかった。
「電力に変換してもまだあふれる瘴気を、自殺志願者を禍ッ日之神の依代とすることで吸収し抑える。そのための犠牲者を探すのが義一さんのお仕事です」
「あ……」
改めて自分のおこなってきたことを突きつけられ、義一は声もなかった。
「そんな。じゃあお前凰和様を次の犠牲にするために近づいたのかよ! 凰和様の力を狙って!」
友仁の言葉に義一は頭を激しく振って「違う!」と叫んだ。しかし友仁はほうきを振りかぶってきた時以上の嫌悪を目に湛えて大きくあとずさっていく。義一はくしゃりと顔を歪めた。
「俺はもうやめるつもりだった! 善人のふりして冥土に連れ込む死神役はもうごめんなんだ!」
「死にたがってるやつの手助けしてなにが悪いんですか」
ぼそりと、だがはっきりと届いた翔のぼやきに義一は間髪入れず噛みついた。
「手助けなんかじゃねえ! それを受け入れちまったらおしまいだろうが!」
義一は自ら翔に近づまねをした凰和をにらみ上げた。翔の仕事と目的を知っていたなら、彼女についていく意味がどういうことかわからないはずがない。
重怠い手に力を込めて義一は地面を掻く。くそ。中途半端な治癒をほどこしたのはこのためか。
「明日があるだろ。今日の俺たちにはなにが起こるかわからない明日が! 明日もしかしたら好きなやつができて死にたくないって思うかもしれない! やりたいこと見つけて夢中になるかもしれない。死はそういう可能性全部を殺すことだ」




