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唐突に記憶があふれ出してきた。橋から転落して義一は川底の岩に頭を打ちつけた。急流になぶられていくうちに肩を強打し、息苦しさに耐えられず意識を手放した。
自殺の名所と呼ばれる橋から落ちて無事で済むわけがなかった。そう思ったとたん義一の鼓動は激しく走り出す。死にたくないと暴れるかのように手足から体温を奪って心臓に集め呼吸が早まり、妙な汗が額に浮き出てきた。
「だいじょうぶ」
おだやかな声とともに額に触れた白い手を義一は無我夢中で掴んだ。そして見上げた先で凰和のやわらかな眼差しと出会う。それは瑠璃の宝玉のように深く美しい青を湛え、舞い上がる金色の火が差し込んでいた。凰和が微笑んだ。義一の背をぞくりとしたものが駆け上がる。
凰和はすがりつく義一の手をやんわりと外させた。義一は人ならざるその眼差しに恐れを抱きながらしかし、あまりの美しさに痛みも忘れ見入っていた。
山犬も同じだった。全身を震わし、耳も二又の尾も丸め恐怖しながら、まるで磔にされたかのように剥き出した目を凰和に定めてあとずさることもできない様子だった。
その山犬を振り返り揺れた凰和の髪先から風が生まれる。義一は自分の目を疑った。風に吹かれる凰和の黒髪がみるみる白に染まっていく。毛先は赤から青へ色を変え、風になびくというよりは水中をたゆたうかのように揺れていた。
その美しく優雅なゆらめきは、雨を晴らしてみせた青い光の鳥とよく似ている。そう思った瞬間、凰和の足元が青く輝き象形文字がいくつもの輪になって少女の体を囲んだ。凰和はふわりと地面から解き放たれて風が激しく服をはためかせている。いや、凰和の服が形を変えていた。




