04
詰め寄ってくる少女に義一は尻をすってあとずさった。寝て起きただけで好きと言われるのは説得力がないどころかもはや意味不明だ。ハッと目を引く美しさはないものの、少女は純朴で利発そうな目をしている。あと五年もすれば食事くらいともにしてみたいと思うが。いやいや。義一は逸れた思考を掻き消した。
「ダメ。つうか、おたくいくつよ?」
「十六です」
「十六う!? 俺とひと回りも違うじゃねえか。ダメダメ。ちんちくりんはお断り。もっと女磨いてから出直してこい」
「では明日もう一度申し込みますの、どえっ」
口の減らない少女を義一は頬を片手で挟んで黙らせた。
「あのな、魅力ってもんは一朝一夕で身につかねえの。もっと自分を大切にしなさい」
「それじゃおそひんでふう!」
「んー? なに言ってるかわかんねえなあ」
むくれる少女にわざと顔を近づけてからから笑っていると、紫陽花に囲まれた扉がギイと音を立てて開いた。振り向くと黄土色の作務衣姿の少年が呆然と立っている。しかし次の瞬間、少年は気の強そうな眉を吊り上げて手にしたほうきを構えた。
「凰和様のご尊顔になにしてやがんだクソおやじいいい!」
「はあ? ちょまっ、ぎゃあ!」
ほうきを高々と振りかぶった少年が突進してきて、義一はとっさに身をひねって避けたもののフルスイングが背中に直撃した。堪らず寝台から転げ落ちたところを、少年はハエでも相手にしているかのように容赦なく追い打ちをかけてくる。足を開いて二撃目をかわし、あとずさりながら寝台の影に飛び込んだところでほうきが空を裂く音が耳をかすめた。
「こら! おま、小僧! いきなりなにしやがる!」
寝台を挟んで対峙すると、少年はその傍らにいる少女を気にして勢いを収めた。しかしほうきは威嚇するネコの毛のように逆立ったままだ。またいつ飛んでくるかわからない凶器を前に義一は少女の後ろに入り込んだ。