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「義一さんにはこちらを」
義一はきょとんと瞬いた。まさか自分にまで贈り物があるとは思っていなかった。凰和が差し出したのは吊り棚から落ちたプラスチック製の白い狐面だった。義一はすぐに受け取らず凰和と狐面の間で視線を行き来させた。
「なんでこれを俺に?」
「似合うかなと思ったからです」
平静を装った心臓がひっくり返りそうだった。義一は笑みで誤魔化しながら凰和から面を受け取る時、この早鐘を打つ振動が伝わるのではと緊張した。凰和は無邪気に「つけてみてください」と催促する。義一は数瞬迷ったが、ここで渋るほうがかえって不自然ではないかと考えて、狐面が米神あたりにくるようにつけてみせた。
「やっぱり! とても似合ってます」
鈴が転がるような笑い声で喜ぶ凰和から義一は視線を落とした。
「……似合わねえよ。俺に白なんて」
「食らえ盗人野郎!」
そこへ威勢のいい声が背後から飛んできたかと思うと、義一の尻が突然冷や水に襲われた。飛び上がって驚き振り向くと友仁が得意顔で水鉄砲を構えている。
「やると思ったぜこのくそガキ! しかもよりによってケツを狙いやがって!」
掴みかかる義一の手をかわし、友仁はけたけたと笑いながら境内を走り回る。砂利を蹴り散らかして義一が本気で追いかけると、ますます楽しそうな悲鳴を上げた。
たったひとり、この神社を守り清めてきた二十六代目随身の姿はそこにない。振り返ってみれば友仁は今まで無理に背伸びをしているかのような表情ばかりしていた。そう思うともう少しこの鬼ごっこにつき合ってやってもいいかという気になり、義一はわざと少年の手を捕まえられるチャンスを逃がした。
「いいえ義一さん。あなたには黒よりも白のほうが似合っていますよ」
凰和がぽとりと落としたささやきは、ドンッと響いた太鼓の音に掻き消された。




