30
その時、凰和の肩が力んで上がり過ぎていると気づいて思わず先に手が出た。
「凰和」
そう呼びかけた時には肩を掴んでいた。凰和の体はびくりと震え悲鳴と同時に発砲音が響き渡る。
飛び出したコルク弾は棚の角にぶつかって跳ね上がり、上から下げられた吊り棚を直撃した。吊り棚がゆらゆらと揺れる。「あ」と友仁が声を上げた時、吊り棚から白い狐面が落ちて水鉄砲が入った箱とぶつかった。大きめの箱がぐらりと揺れる。
ひ、とのどをひきつらせたのは店主か。集まった子どもたちが一斉に身を乗り出したその念がまるで背中を押したように、箱は前へ倒れひな壇に行儀よく並んでいたお菓子たちを次々となぎ倒していった。
「やったあー!」
子どもたちの歓声が弾ける。
「ちょ、ちょっと待って! 要相談! 要相談だから!」
そこへすかさず店主が腕を顔の前で大きく振って割り込んできた。子どもたちは一変して不満の嵐を起こす。だが凰和が店主の相談に応じると口を閉じて耳をそば立てた。
協議の結果、凰和は倒れた景品から好きなものを五つだけ選べることになった。店主は最初三つと言ってきたが、凰和が残りの弾を放棄すると言ったら折れてくれた。
凰和は姉妹が欲しがっていたアクセサリーつきのお菓子三つと水鉄砲、そして落ちてきた狐面を選び、姉妹に景品を渡すと子どもたちから英雄のように称えられながら射的屋をあとにした。
「はい、友仁。水鉄砲あげる」
屋台の行列から外れて人気の少ない手水所までやって来て、凰和は友仁に水鉄砲をあげた。「いいんですか」と不安そうな声をこぼしながらも友仁の頬は喜色に染まっている。「お小遣いをくれたお礼だよ」と凰和が微笑めば友仁はうれしそうに受け取ってさっそく箱を開け、水色のクリアな銃を片手に手水所へ駆けていった。




