03
寝台らしき台の上に寝かされていたようだ。しかし布団の代わりに敷かれているのは青々とした芝生だった。ぷうんとにおいがすると思ったら、寝台の周りでいちごが赤い実をつけている。天井の梁は見事な藤棚と化し、紫の房がいくつも垂れ下がっている。その向こうの扉脇には紫陽花が植わっていて、ピンクや水色のがくがわた菓子のようにこんもり盛り上がっていた。振り返ると壁際には椿の大輪が咲き乱れ、その足元を用水路がさらさら流れている。
なんなのだろう、この空間は。まるで季節感がない。
頭を抱えた義一の手に湿った髪の感触が当たる。見るとスーツも襟つきシャツももったりと重くひんやりとして、生乾きの妙なにおいを放っていた。そこで義一は昨夜、突き飛ばされて川に転落したことを思い出した。
「あのさあ、おじょうちゃん。俺はどこにいた?」
「はい。あの水路にゴミが詰まっていると思って見たらあなたでした」
「ゴミ……」
どうやら川に流されてここまで辿り着いたらしい。となると、ここは山林にほど近い民家かなにかだろうか。自分の悪運の強さにため息を吐きつつ義一が立ち上がろうとすると、少女の手が胸に触れてそっと制された。
「養生してください。大変な怪我でしたから」
「怪我? 俺どこも痛くないけど」
体のあちこちを触って確かめてみるものの、痛みもなければ違和感もない。強いて挙げるとすれば全身が倦怠感に包まれているが、残業した日に比べればかわいいものだ。
首をひねる義一に向かって少女は胸を張り、自分を示した。
「それはもちろん、妻である私が手当てしましたので!」
「いや手当てというか痕跡すらないんですけど。ってか結婚話を進めるな!」
「ダメなのですか!? 私はあなたが好きですよ!」




