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「ちえっ。キャラメル一箱だけか。で、おっさんは?」
結果がわかっているくせににやけ顔で聞いてくる友仁を義一はにらんだ。義一の収穫はゼロだった。的には当たっているのだがことごとく倒れなかった。テープで固定しているか中に重りでも入っているのかと店主を疑う。だがしっかりキャラメルを手に入れている友仁を見る限り、単に義一の狙いが悪かったと認めざるを得ない。
凰和のほうはどうかと視線を移すと、やっと三発目の弾を込めたところだった。義一が教えた通り低く構えて照星をじっと見つめ狙いを定める。その銃口はまっすぐピンク色の箱に入ったおもちゃのアクセサリーつきお菓子に向けられていた。脇から姉妹の頭がひょこひょこ突き出て、小声で「おーわさまがんばって」と声援を送っている。見ればその周囲にも子どもたちが見物に集まっていた。
凰和は熱い視線を頬に受けながら真剣な眼差しで的を見据えている。義一が片足に重心を預け腕を組み、夏風に揺れる前髪を直したりムズムズする鼻と格闘したり、友仁が二個目のキャラメルをゴソゴソと開ける音を聞きながらあくびをこぼしたりしていた時、パンッと音を立てて凰和が引き金を引いた。
「いや長いな!? しかも外れてるし!」
凰和が放った弾は棚にぶつかって落っこちた。凰和はぷはっと息をついて胸をあえがせている。狙いを定める時息を止めているようだ。呼吸法だけはプロの狙撃手のそれだが、いかんせん実を結んでいない。むしろ息苦しさで狙いがそれているのではないか。
しかし凰和はめげずに四発目の弾を装填する。隣で残念がる姉妹に向かって「大丈夫だよ。少しコツを掴んできたから」と笑いかけた。そして再び構えに入る凰和から、義一はコルク銃を奪ってしまいたい衝動に駆られて額をガリガリ掻いた。だがそれと同時に凰和は自分でやりたいのだろうと気持ちを察して、義一の衝動は行き場を失う。




