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「あの水鉄砲欲しい!」
叫んだ友仁に買おう買おう、とすぐさま飛びつく凰和に義一は頭を抱えたくなった。巫女の奇跡を目の当たりし、その神々しさに今までの非礼を侘びたくなった数時間前の自分が恥ずかしい。やっぱり中身はどこにでもいるお子サマだ。
義一は小遣いの入った封筒を取り出す凰和の手を押さえた。
「あのね、おたくらもうかき氷にチョコバナナ食って残金二〇〇円でしょうが。よく考えて使えよ。無駄遣いするなって言ったのはどこの随身サマでしたっけ?」
首から下げたビニル製のがま口財布をぱちんと閉めて友仁はうなった。
「じゃああんたが最初に焼き鳥三本も買ったのはどうなんだよ」
「俺は自分の好物に集中投資しただけ。満足してるから無駄じゃない」
「義一さんが好きなら私も食べてみようかな、焼き鳥」
ぽつんと凰和がつぶやいたとたん、義一は行き交う人々の足が一斉に立ち止まりおはやしの音も飛び退き、連なるちょうちんの灯りがひとつ残らずぶるりと震えた錯覚がした。
「それはやめたほうがいいだろ」
「なんでですか。またお子サマには早いって言うんですか」
「いやだってそれ共食い――ぐはっ!?」
言い終わらないうちに友仁から拳が飛んできた。
「凰和様をにわとりといっしょにするな」
手加減を知らない友仁を忌々しく見やった時、その後ろを凰和がふらりと歩いていった。さっきまで巻きつかれていた腕を見るとからっぽになっている。幼い少女の声が「ねえねえ、おーわさま」と呼ぶ声がして義一は友仁を押しのけた。凰和はいつの間にか三、四歳の女の子に誘われて射的屋の前に立っていた。
「おーわさまのまほうで、あのおかしとって!」
友仁とともに駆け寄ると、凰和は女の子に裾を掴まれ射的の景品をねだられている最中だった。




