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玄関前のひさしを雨が激しく打ちつけている。
びちん、ばちん、と連続する大粒の雨音は会話さえ困難な勢いだ。白くけぶる世界を凰和とふたり眺めながら、義一は玄関で大工の棟梁や自治会の会長、踊り手の先生たちと話し合う友仁の幼い声を聞いていた。
友仁が夕立はすぐにやむから祭りの開始を遅らせようと言っても「はあ」とため息のような返事がするだけだ。では明日に延期するのはどうかと提案したところで「へえ」、せめて凰和のあいさつだけでもと懇願しても「ふうん」と生返事がつづく。
引き戸の隙間から心配そうに友仁を振り返った凰和がつぶやいた。
「雨が降ると瘴気が濃くなるのは今も同じなんですね」
「ああ。子どもはまだ影響が軽いが、大人は無気力になっちまう。食べることも明日のことも考えられなくなって、そのうち意識を無理やり沈めるような眠気に襲われる」
「生活の営みが途絶えますよね。現代の方は不便に思っていませんか」
「雨さえ上がりゃあ元通りだからな。お互い様っつうことで衝突も問題もなんとか回避してる。雨季は薬で気分を高めてるし」
そうですか、と簡素に返された声に義一がどれほどひやひやし、慎重に言葉を選んでいたかを凰和は知る由もないだろう。
ジョージ電力会社を見つめていた時のように、瘴気の話をする凰和からは一切の表情が消えるようでとても見ていられなかった。霊獣ノ巫女として課せられた役目を思えば仕方ないかもしれないが、義一にはどうしても巫女の顔をする凰和が自殺志願女性と重なって見える。
そんなことを考えていたせいか凰和がふらりと立ち上がっただけで義一は大げさに驚いた。そしてそこではじめて晴れの気力を保てている自分に気づく。見てわかるものでもないが義一は思わず自分も体を見下ろして腹や顔を叩いた。傘を差して雨の中を散歩するのも悪くない。そう思ったのは子どもの時以来だった。




