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「多くは言わねえが、障子に穴あけやがったら弁償だからな」
一階の食卓につくや否や、頬に米粒をつけた友仁からにらまれた。おにぎりで頬をぱんぱんにふくらませた子どもに注意されてもな、と思っていると澄ました顔の凰和が義一の前に豚汁の入った椀を置いていった。お湯を注いだばかりの水面で、しわしわに乾燥した根菜類がくるくる踊っている。
向かいに座った凰和の椀の中身は赤い。ミネストローネだ。最近はインスタント食品でもしゃれたメニューがそろっている。凰和は好奇心から昨日の夕飯に赤いスープを選んでいたのだが、すっかり気に入ったようだ。だが少女の手がおにぎりに伸びて義一は顔をしかめた。
「げ。お前それは組み合わせ最悪だろ。米にはみそ汁って決まってる」
ところが凰和はそっぽを向いておにぎりを頬張った。
「お子サマなのでわかりません」
今朝のやり取りを気にしていたらしい。義一は朝から友仁がキレ気味の理由もなんとなく察した。大方凰和がふんだんに誇張して義一の文句を吹き込んだに違いない。案の定友仁は凰和の態度を見てますます目つきを険しくした。
「あんまり調子乗ってると今日のお小遣いやらねえからな」
「なんだって?」
豚汁をすする音とともに友仁の言葉ははっきりと届いていたはずだがうまく理解できなかった。
「今日はお祭りだって言っただろうがおっさん。屋台が出る。屋台が出たらお小遣い持って回るに決まってんだろ。今日は奮発してひとり五〇〇円にしてやろうと思ったのに」
友仁の隣で凰和が手を叩いて喜び「五〇〇円って高いの?」と首をかしげた。義一は噴き出しダイニングテーブルを叩く。友仁はぎろりと、凰和はきょとんと、それぞれ爆笑する義一を見つめる。たかだか五〇〇円玉一枚を大金のように言ったり喜んだりするふたりは、やはりまだまだお子サマだ。




