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友仁の笑いのツボがわからない。子どもには浮遊建造物がひもで繋がれた凧か犬に見えているのか。義一は目元をひきつらせた。
「俺は機械のことはさっぱりだ。でもおっさん詳しいんだな」
「俺はあそこで働いてたんだよ」
機械に疎いなんて今時の子どもにしては珍しい。神社の子だからか、とぼんやり考えながら義一はぶっきらぼうに答えた。「ふうん」と友仁の反応は薄い。知らず知らず緊張していた自分に気づいてゆるく首を振る。友仁も、世間の誰も、義一の本当の仕事について知る者はいない。知られることはあってはならない。
「っていうことなんですよ、凰和様」
「え。あれ? ちゃんと聞いていたのになにも理解できてない?」
「安心しろおじょうちゃん。あんな端折られたら誰だってそうなる。カンペまで用意したんだから最後まで投げ出さずに話せ」
腕を組んで言外に、俺はもう助けないぞと言えば、友仁は眉間をつまんでうなった。どんなに強がって見せても中身は十歳ということだ。難しい単語を口にしながらその理解が追いつかず、頭が疲れるのも無理はない。集中力の限界も近いはずだ。
「友仁がんばって。あなただけが頼りだよ」
凰和が友仁を励ました時、風が吹いて少年の髪をなでた。義一の首筋にも感じたそれは秋風のようにからりと乾いて涼しく、湿った心にまでスッと入り込んだ。すると友仁は急にメモ紙をくしゃりと握り潰して顔を上げた。
「つまり、瘴気をエネルギーに換えられるようになって世界の瘴気が薄まったんです。人にも自然にも影響が出ないくらいに。だから凰和様はそのお役目を果たされなくてもいいかもしれないんです!」
お役目。また義一にはわからない話だったが黙って見守ることにした。喜ぶ友仁を映す凰和の目が揺れて見えたからだ。それは小さく震える度に喜びや切なさや安堵や悲しみの色を変えるようで、今、少女はなにを思うのか義一には到底計り知れなかった。




