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おっほん。ぎこちない咳払いが聞こえて視線を戻すと、友仁がメモを持って改まった顔つきをしていた。
「凰和様。あなた様が眠り遊ばせてから二八九年が経ちました。かつての大戦により現世にあふれた憎悪の化身、禍ッ日之神は今も深く大地に根ざし瘴気を放ちつづけています。しかしながら――」
「ちょ、ちょっと待て! 眠っていた? 二八九年も!? なんの話だ!」
とても黙っていられず大声で話を遮る義一を見て友仁は舌打ちした。そろそろ年長者でも心にひびが入りそうだ。思いやりが欲しい。
しかし遠慮のない少年でも凰和の顔色だけはうかがう。義一も信じられない思いで少女を見た。肌は瑞々しく艶やかな黒髪を持ち、まだわずかにまろみを帯びた輪郭のいとけない少女が、約三〇〇年の時を経ているなど誰が信じようか。
だが義一がいくら視線を注いでも凰和はじっと向こう岸のビル群を見つめていた。友仁から質問はあとにしてくれと言われ、義一は口をつぐむしかなかった。
再びメモに戻って友仁は説明をつづける。
「ええと……。しかしながら、あー、なんだこれ読めねえ。ジョージ電力の社長なんとかが、五十四年前に瘴気を利用したなんかすげえ発電システムによって……」
「譲慈社長だ。会社名と同じ。あと瘴気嵐流発電システムな」
助け舟を出した義一を友仁は目をまるくさせて見上げた。
「ジョージ電力って人の名前だったのか。瘴気らんりゅーってなに? どうやって発電させてんの?」
「高濃度の瘴気は渦を巻いて風を発生させる。バカでかい台風だ。社長はその風で巨大ファンを回転させて、電力を起こす仕組みを作ったんだよ」
「だからあの会社浮いてんの? ウケる」




