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ふう。息をついてとりあえず落ち着く。そうこうしていると上から友仁が「そこで待っててもいいけど?」と投げかけてきた。
「まったく、これだからお子サマは。気の利かねえ男はモテないんだぞ」
義一の声は届かなかったのか「老体は無理しないほうがいいんじゃない?」とにやにや追い打ちをかけてくる。義一は完全に凰和の足音が聞こえなくなってから一段飛ばしで上ってやった。十以上も離れた子ども相手にすることではないとわかりつつも、こちらとてまだぎりぎり二十代だ。老け込んでいるとは思われたくない。
だが、これしきのことで息が上がるとは計算外だ。
「大丈夫ですか」
「余裕……!」
凰和には強がってみせたが、義一は少し酒をひかえて運動しようとこっそり考えた。
「欄干が低いのであまり端っこを歩かないでください。凰和様、まずはあなた様にこの景色を見て頂きたかったんです」
友仁は吹きさらしの廊下中央まで凰和を招いて、眺望に手を差し向けた。凰和が息を呑む。義一も夏の日差しにせつな痛みを覚えながら光に目を向けた。
そこからは山林のふもとに広がる平野に佇む町並みが一望できた。鳥居大門からつづく長い階段の下には、赤茶色の瓦屋根を乗せた家々が連なっている。その間を紫の電線と街路樹の緑が縫い、辛うじて見える道路を車が走っていく。幼稚園や学校らしき大きな建物がぽつぽつと見えて、やがてそれらの人工物はぷっつりと途絶える。
川だ。この山林から水路を辿って、いくつもの支流と合流した大きな川がまるで境界線のように悠々と横たわっていた。それを越えるために渡された橋の上を、絶え間なく走る車の動きがここからでもはっきりと見える。
そして川の向こう岸には、ここら地域周辺には見られない高層ビル群の世界が広がっていた。その中でも異彩を放つ巨大なケーブルに繋がれた浮遊建造物に目を留めて、義一は顔をしかめた。




